米追加関税対応で保税倉庫制度の活用に関心高まる

(米国、日本)

ニューヨーク発

2025年10月24日

米国の追加関税措置の相次ぐ発動に伴い、輸入貨物を米国内に保税で留め置ける外国貿易地域(FTZ)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの活用への関心が高まっている。FTZとは、1934年に制定された外国貿易地域法(Foreign-Trade Zones Act of 1934)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)に基づいて規定されている制度だ(注1)。米国内の特定区域に所在する企業、または制度の認定を受けた企業に対し、外国貨物を輸入通関前の保税状態のまま保管・加工・製造することを認める。商品が米国内販売のために輸入通関される段階で関税を支払う必要があるが、再輸出される場合には関税が免除される。

在米日系物流企業によると、「以前は米国の輸入関税がほぼゼロだったため、海外からの貨物を米国内に通関・在庫しておき、カナダや南米へ再輸出する商流も多かった。しかし、現在は米国に輸入時に高関税がかかるため、米国内への通関を避け、FTZを利用するケースが増えている」(8月28日、ジェトロ聴取)という。

現状でFTZを利用していない日系事務機器メーカーも、「在米の物流拠点で輸入した製品を中米カリブ向けに再輸出する取引で、追加関税導入以降はコストが上昇し、値上げを余儀なくされている。米国内FTZの活用、または中米への物流センター設立を検討中だ」(9月22日、ジェトロ聴取)と話す。

また、既にFTZを活用する日系電機メーカーは、既存工場の拡張のための設備輸入について「鉄鋼・アルミニウム派生品に該当する機械設備などの輸入に際し、通関手続きが著しく煩雑になる中で、輸入設備をいったんFTZ内に留め置けることで、申告の作業時間が確保できる。関税支払いのタイミングを調整でき、キャッシュフロー上もメリットが大きい」(9月4日、ジェトロ聴取)という。

ただし、米国進出企業の間でFTZ活用への関心が高まっている一方で、その是非は企業の輸出入形態や規模、在庫の保有状況、再輸出取引の有無や頻度などによって大きく異なるのが実態だ。在米日系商社からは、「追加関税などにかかる膨大な書類手続きや各種コンプライアンス対応にかかる業務が著しく増大する。遅延なども多発しているため、対応策としてFTZの活用も検討したものの、そのための新たな手続きやオペレーションコストを比較検討し、実現可能性は低いと判断した」(8月22日、ジェトロ聴取)との声も聞かれており、活用には十分な検討と慎重な判断が求められる。

FTZの運営形態には、FTZ法に基づいて地理的に固定されたゾーンを連邦政府が事前に指定する旧来型の形態に加え、2008年以降、Alternative Site Framework(ASF)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)という枠組みに基づく運営形態がある。このASFの下では、指定されたサービスエリア(注2)の範囲内で、(1)州の経済開発機関や自治体などが地域開発などを目的としたゾーン設定(Magnet site)を行うこと、もしくは、(2)開発企業が新たな区画や施設を指定(Usage-Driven Site)し、FTZとしての認可申請を行うことが可能だ。なお、追加関税の発動以降、「FTZの申請件数が急増しており、申請から認可まで3~4カ月程度を要するといわれている」(前出の日系物流企業)という。そのほか、サービスエリア外に立地する製造企業などが自社施設に対するFTZステータスを個別申請すること(Sub Zone扱い)も可能だが、詳細な事業計画、経済的影響評価などを含む包括的な申請が必要になるほか、地方・連邦政府との調整・承認手続きなどの負担が大きいとされる(注3)。

(注1)同法に基づき、FTZの設立などに関する連邦実施規則として、商務省の管轄するFTZ Board Regulations(15 CFR Part 400)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、米国税関・国境警備局(CBP)制定の運用規則として、CBP Regulations(19 CFR Part 146)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますがある。

(注2)経済開発局や港湾局などが地域管理者(Grantee)として、民間ニーズなどに基づき、特定の地域を「サービスエリア」として連邦政府のFTZ管轄機関(商務省を主体とするFTZ Board)に申請し、事前に承認を受けたもの。

(注3)手続きの詳細については、CBPによるForeign Trade Zones Manual外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。

(伊藤博敏)

(米国、日本)

ビジネス短信 56cf2eb93ff10de2