欧州の研究機関、EU農業におけるデジタル化を分析

(EU)

ブリュッセル発

2025年10月15日

欧州委員会の共同研究センター(JRC)は9月19日、「EU農業におけるデジタル化の現状」を分析した報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。加盟9カ国(ドイツ、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、イタリア、リトアニア、ハンガリー、ポーランド)の農家1,444人を対象としたインタビューに基づく。

同報告書によると、回答者の93%は少なくとも1つのデジタルツールを導入しており、68%は3つまたはそれ以上のツールを活用している。作物向けデジタル技術を少なくとも1つ導入している農場の割合は79%、3つ以上導入している割合は29%で、畜産向け技術はそれぞれ83%、17%だった。導入は2008~2020年に拡大したが、2020年以降は経済的な不確実性の高まりにより鈍化し、今後の導入見通しも控えめだ。

作物向けで最も導入されている技術は畑のデジタル記録(58%)で、衛星データによるマッピング(22%)、農場管理ソフトウエア(21%)が続いた(添付資料表1参照)。畜産向け技術では、家畜のデジタル記録(66%)の導入率が最も高く、農場管理ソフトウエア(23%)、畜舎監視カメラ(18%)が続いた(添付資料表2参照)。

作物・畜産向けデジタル技術の導入率は、技術カテゴリーによって異なるものの、大規模農場で10~84%高く、インターネットの接続環境が悪い場合は4~30%低い。直接販売を手掛ける場合は14~36%高く、兼業農家では10~33%低い。専門的なデジタル技術や農業訓練を受けることで導入率は14~71%上昇する。教育水準の高さは、一般的なデジタル技術の導入率の高さとは相関するが、作物・畜産向け技術への影響は少なかった。地域差や生産の専門性の違いを見ると、南部の加盟国や作物・畜産を専門とする農家ではより多くのデジタル技術が導入されていた。また、土地の所有形態(部分所有や賃借など)も、畜産関係の技術導入率に影響している。一方、性別や有機農業への従事などとデジタル技術の導入との関連性は限定的だった。

デジタル技術の導入は、障壁(導入費用や知識・技能不足)よりも、促進要因(効率性向上やコスト削減、生活の質と福祉の向上、経営・業務改善、成長機会、市場圧力)が関連した。

JRCは、デジタル技術の導入支援には、専門的なコンサルティングや研修、教育が重要とした。また、農家はプライバシーや安全性、データ管理への懸念を理由に、データの共有に消極的だ。データの管理権を付与し、透明性のあるデータ共有方針やビジネス慣行を推進することが信頼につながる。知識の共有や個別対応サービスも、デジタル化への参加を促す鍵となる。人工知能(AI)の導入は、手頃な価格や利点を認識すること、そして様々な種類の農場や地域的状況への適合性に左右される。

欧州委の9月24日付発表によれば、EUの2025年上半期の農産食品の累計輸出額は、価格上昇にもかかわらず堅調で、前年同期比2%増の1,187億ユーロだった(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

(大中登紀子)

(EU)

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