南アのクロム業界トップ、違法採掘や電力コストなど窮状を訴え
(南アフリカ共和国)
ヨハネスブルク発
2025年10月06日
ステンレス鋼やクロムめっき、耐熱合金(スーパーアロイ)など、工業用に幅広く利用されるクロムは、非常に重要な鉱物だ。南アフリカ共和国はこのクロム鉱石の生産量では世界の43.6%(2023年)を占めて、第1位だ。しかし、南アのクロム産業は鉱石の密輸出、電力コストの大幅な上昇などで危機にひんしている。世界有数のクロム生産企業のグレンコア・アロイズ(Glencore Alloys)の最高経営責任者(CEO)、ジャピー・フルアード氏は9月23日付「ビジネス・デー」紙のインタビューで、窮状を訴えた。
南ア国内のクロム産業は、政府が約束していた輸出規制の導入を先延ばしにしているため、深刻な打撃を受け、経済損失額は70億ランド(約609億円、1ランド=約8.7円)以上になるという。政府はクロム鉱石の輸出管理を強化し、輸出業者に南ア貿易産業委員会(ITAC)の許可証取得を義務付けるとしていた。「南アで採掘されるクロムの10%以上、すなわち270万トンものクロムが違法に採掘されている。全てのクロム生産者がITACに登録することを義務付ければ、違法採掘を完全に阻止できるだろう」とフルアード氏は述べた。
もう1つの課題は電力コストの上昇だ。これにより、高価値のフェロクロムへの加工能力が低下しており、グレンコアとメラフェ(Merafe)の合弁会社は製錬所を停止せざるを得なくなり、数千人の雇用が危ぶまれているという。グレンコアは労働関係法に基づき、「S189手続き」(注)を開始したことを発表していた。フルアード氏は、南アの加工能力を回復し、雇用喪失を食い止めるには、電力料金の大幅な引き下げが必要とし、重工業を対象とした特別経済区の設立構想は緊急に実現すべきと述べた。電力コストの上昇が業界に与える深刻な影響については、コシエント・ラモホパ電力・エネルギー相も認めており、必要な措置を検討していることを明らかにしている(9月10日付「ビジネス・デー」紙)。
なお、こうした問題は去る3月のポール・マシャティーレ南ア副大統領訪日時に開催されたハイレベルラウンドテーブル(2025年3月21日記事参照)でも、出席した日本企業幹部からも指摘が出ていた。
(注)労働関係法第189条の「事業運営上の必要性に基づいて従業員を解雇する場合、その解雇が実質的にも手続き的にも公正である限り、雇用主が従業員を解雇することを認める」に基づき、従業員解雇の手続きを開始すること。
(的場真太郎)
(南アフリカ共和国)
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