低排出水素製造量の増加は減速も、2030年に5倍以上と予測
(世界)
調査部国際経済課
2025年09月18日
国際エネルギー機関(IEA)は9月12日、「世界水素報告(Global Hydrogen Review)2025年版」を発表した。同報告での最新の分析によると、低排出水素(注)製造プロジェクトの相次ぐ中止や遅延、直面している課題にもかかわらず、2030年までの製造量予測は大きく増加する見込みだ。ただし、プロジェクトの発表が相次いだ2020年代前半ほどのペースではないとの見方をしめしている。
それでも、2030年までに操業中、建設中、または最終投資決定に至るプロジェクトは、2024年の約80万トンから5倍以上増加し、年間製造量は400万トンを超える見込みだ。需要を確保する効果的な政策が実施されれば、追加で年間製造量600万トンが2030年までに操業開始する可能性が高いとも指摘している。
同報告によると、低排出水素以外の水素も含む世界の水素需要は2024年に約1億トンに達し、2023年から2%増加した。水素は次世代のエネルギーとしての期待も大きいが、需要家は依然として従来の消費部門の石油精製などの産業だ。また、排出する温室効果ガス(GHG)などを回収する措置を講じずに製造された化石燃料由来の水素の利用が大半だ。その理由の1つには、コストがある。世界的に見ると、化石燃料から水素を製造する方が、再生可能エネルギーによって水を電気分解して水素を製造するよりもはるかに安価で済む。この価格差は、天然ガス価格が近年下落する一方、電解装置などが価格上昇するといったインフレの進行により拡大している。しかし、特に欧州では天然ガスの価格の高さも考慮すると、再生可能エネルギーの急成長と新たな規制により、2030年までにコスト差は縮小するとIEAは予測している。
再生可能エネルギーと同様、低排出水素製造のための電解装置導入を牽引しているのも、中国だ。中国は設置済みまたは最終投資決定段階にある世界の電解装置容量の65%を占める。ただし、中国国外の地域に中国製の電解装置を設置する場合、輸送費や関税などさまざまなコストを考慮すると、他のメーカー製を設置する場合と比べて、著しくコストが低くなるわけではないと結論づけている。
なお、報告書の発表と同時に、IEAは世界の水素製造・インフラプロジェクトがリスト化された「水素製造・インフラプロジェクトデータベース」の最新版も公表した。また、低排出水素プロジェクトや世界の水素政策を視覚的に概観できる「水素トラッカー
」も新たに公開しており、日本企業にとって水素関連情報の収集に活用できる利便性の高いツールが増えている。
(注)IEAの定義する低排出水素(low-emissions hydrogen)とは、(1)再生可能エネルギー(太陽光・風力など)由来の電力により製造された水素、(2)原子力発電由来の電力により製造された水素、(3)炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)技術を使用の上、バイオマスや化石燃料から製造された水素を指す。これらは一般的に、(1)グリーン水素、(2)ピンク水素、(3)ブルー水素と呼称される。
(板谷幸歩)
(世界)
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