トランプ米大統領、国防総省の宇宙コマンド本部をコロラド州からアラバマ州へ移転を発表

(米国)

アトランタ発

2025年09月05日

米国のドナルド・トランプ大統領は9月2日、米国国防総省傘下の11の統合軍(Unified Combatant Commands)の1つである宇宙コマンド(United States Space Command:USSPACECOM、注1)の本部を、コロラド州コロラドスプリングスのピーターソン宇宙軍基地からアラバマ州ハンツビルにある陸軍レッドストーン兵器廠(へいきしょう)に移転すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

USSPACECOMは1985年9月に創設され、2002年10月に戦略統合軍に整理・統合された後、第1次トランプ政権下の2019年8月に再設置された。米空軍はUSSPACECOMの本部候補地としてピーターソン空軍基地(当時)やレッドストーン兵器廠など6カ所を挙げ、インフラの収容能力や地域社会の支援、費用などの観点から検証し、2021年1月に、レッドストーン兵器廠を優先候補地として発表した(注2)。しかし、2023年7月には、本部移転に伴う戦備体制の混乱回避を理由に、ジョー・バイデン大統領(当時)が同本部をコロラドスプリングスにとどめると決定した(APニュース2023年7月31日)。

トランプ大統領は、当初の移転計画がバイデン前政権によって不当に妨害されたと述べたほか、コロラド州が郵便投票を採用し(注3)、不正選挙が横行していると指摘して(注4)、これが本部をコロラドスプリングスから移転させる「大きな要因」になったと述べた(注5)。さらに、本部移転によりアラバマ州で3万人以上の雇用が創出され、数千億ドル規模の投資が見込まれると述べた。なお、USSPACECOMは、トランプ政権が計画中の次世代ミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム・フォー・アメリカ(注6)」の構築において重要な役割を果たすという。

移転先のアラバマ州ハンツビルには、米国航空宇宙局(NASA)のマーシャル宇宙飛行センターが立地するほか、ボーイング、ロッキード・マーティン、ブルー・オリジン、ボーイングとロッキード・マーティンの合弁会社ユナイテッド・ローンチ・アライアンスなど航空宇宙・防衛大手などが拠点を置き、航空宇宙・防衛産業が集積している。同州のケイ・アイビー知事(共和党)は、USSPACECOM本部を設置するのにハンツビル以上に適切な場所はなく、ハンツビルはロケット・シティ(注7)として真の「宇宙の中心地」であり続けると述べ、決定を歓迎した。

(注1)USSPACECOMは、米国の軍種横断的に編成された統合軍(Unified Combatant Command)の1つ。統合軍は、USSPACECOMを含む7つの地域統合軍と4つの機能統合軍(サイバー、特殊作戦、輸送、戦略)の計11の統合軍で構成される。USSPACECOMによると、同コマンドは「任務遂行のため、米国陸軍、海兵隊、海軍、空軍、宇宙軍(United States Space Force:USSF)からなる統合部隊を積極的に運用する」役割である一方、USSFは軍種の1つとして「宇宙専門家の組織化、訓練、装備を行い、USSPACECOMおよびその他の統合軍に提供する」としている。

(注2)2022年5月から2023年6月にかけて、米会計検査院などからの勧告を受け実施した再評価でもレッドストーン兵器廠が選定されたものの、最終決定には至らなかった。

(注3)コロラド州は、各郡がすべての選挙において、登録有権者全員に投票用紙を郵送することを義務付ける、もしくは許可するユニバーサル郵便投票を採用している。2025年9月時点で、全米で同制度を採用しているのは、カリフォルニア、コロラド、ハワイ、ネバダ、オレゴン、ユタ、ワシントンの7州とコロンビア特別区(首都ワシントン)。

(注4)議会専門誌「ザ・ヒル」によると、トランプ大統領は長年、郵便投票をめぐる大規模な不正投票に関する根拠のない主張を拡散しており、2020年大統領選挙での同氏の敗北を「不正操作された」と表現しているが、有識者は郵便投票に関連する不正は非常に少なく、不正を防ぐための安全策が講じられていると指摘している。

(注5)USSPACECOM本部候補地評価を検証した米会計検査院による2025年5月発表の報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、ハンツビルへの移転は、15年間コロラドスプリングスにとどまる場合と比較して4億2,600万ドルの費用が削減されるという。

(注6)同システムは、2025年1月27日にトランプ大統領が署名した大統領令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに基づき、国民とインフラを外国による本土への空襲から守り、第二撃能力も確保するミサイル防衛システムの設置を求めるもの。大統領令では「アイアン・ドーム・フォー・アメリカ」という名称だったが、その後、「ゴールデン・ドーム・フォー・アメリカ」に変更された(Space News2月28日)。

(注7)ハンツビルの愛称。1950年代以降、同市で宇宙技術が開発されたことに由来。

(横山華子)

(米国)

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