8月の米ISM景況感指数、関税コストが雇用を下押し、さらなるコスト増回避へ駆け込みの動きも

(米国)

ニューヨーク発

2025年09月08日

米国のサプライマネジメント協会(ISM)は9月2日に8月の製造業景況感指数外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを、9月4日に8月の非製造業景況感指数外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますをそれぞれ発表した。

製造業景況感指数は48.7で、前月から0.7ポイント改善したが、基準値の50を依然として下回っているほか、ブルームバーグの市場予想(49.0)にも届かなかった。

項目別では、指数の構成要素のうち、雇用(43.8)が先月に続いて最も大きな押し下げ項目だ。そのほか、生産(47.8)、在庫(49.4)も基準値を下回った。他方で、受注(51.4)は7カ月ぶりに基準値を上回り、需要の増加を受けて供給(51.3)スピードも低下(注1)した。もっとも、受注については、6大産業(注2)のうち、拡大と回答したのは、食品・飲料とコンピュータ・電子製品の2業種に限られ、「新規受注に関する肯定的なコメント1件に対し、主に関税コストと不確実性に起因する短期的な需要への懸念を表明するコメントが2.5件あった」(注3)と報告されるなど、業種によってバラつきがみられる。指数の構成要素以外の指標では、仕入れ価格(63.7)は依然として高水準ではあるものの、前月(64.8)からやや低下しており、関税コストの負担を巡るBtoBレベルでの価格交渉が徐々に消化されつつあることを示している可能性がある。

今回の報告書における企業からのコメントでは、「2度の価格改定を行い、24%価格を引き上げたものの、関税分を相殺できるにすぎない。利益率は実際には低下する見込みだ。2度の人員削減によって米国の従業員を15%削減した。貿易と経済に安定性がないため、設備投資と採用は凍結されている」(電気機器)など、関税に伴う悲観的な声が多く聞かれた。

業種別では、景況感が拡大と回答した業種は全体で7業種、縮小したと回答した業種は10業種だった(注4)。

非製造業景況感指数は52と、前月(50.1)から大きく改善し、市場予想(50.9)も上回った。

項目別では、指数の構成要素のうち、雇用(46.5)のみは基準値を下回ったものの、それ以外の項目は基準値を上回り、特に受注(56)とビジネス活動指数(55)が大きく改善した。もっとも、これらの改善については「ホリデーシーズンのピーク需要に備えつつ、さらなる価格上昇に先んじようとする動きが事業活動や輸入を牽引している可能性がある」とも説明されており、今月の改善が一時的なものなのか、それともサービス業の底堅さを示すものなのかは判別しがたい。指数の構成要素以外では、仕入れ価格(69.2)は前月に続いて高水準で、18業種中16業種で価格が上昇した。

企業からのコメントでは、製造業と同様に、関税による事業への影響を懸念する声が多数聞かれる一方、「米国事業の拡大に伴うコストを把握しようと努めていることから、事業は引き続き力強い状態だ」として、現下の環境がむしろ有利に働いているとの声(専門・科学・技術サービス)や、M&Aによる収益増を報告する声(不動産)も聞かれた。

業種別では、景況感が拡大と回答した業種は全体で12業種、縮小したと回答した業種は4業種だった(注5)。

(注1)50を上回ると供給スピードの遅延、50を下回ると改善を示す。供給スピードの遅延は商品の動きの多さを示すので、指数として景況の良さを表す。

(注2)商務省発表の2023年第4四半期(10~12月)から2024年第3四半期(7~9月)までのGDP数値に基づき、産出額の大きい6業種の化学、輸送機器、コンピュータ・電子製品、食品・飲料・たばこ、一般機械、石油・石炭製品を指す

(注3)懸念を示すコメントの総数を肯定的なコメントの総数で割った数

(注4)拡大と回答した業種は、繊維、衣類・皮革、非金属鉱物、食品・飲料・たばこ、石油・石炭、その他製造業、一次金属。縮小と拡大した業種は、紙製品、木材製品、プラスチック・ゴム製品、輸送機器、家具、一般機械、電気機器、コンピュータ・電子製品、化学製品、金属加工製品。

(注5)拡大と報告した業種は、情報業、卸売業、娯楽・接客業、鉱業、運輸・倉庫、教育、専門・科学・技術サービス、小売業、公共事業、医療・福祉、行政、不動産。縮小と回答した業種は、宿泊・飲食サービス、企業管理・サポート、その他サービス、建設。

(加藤翔一)

(米国)

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