AI主導の半導体開発、ホットチップス2025で示された未来像、ラピダス社長が基調講演

(米国)

サンフランシスコ発

2025年09月09日

最新の半導体技術に関する国際会議「ホットチップス2025」が82526日、米国カリフォルニア州のスタンフォード大学で開催された。同会議は1989年の創設以来、基調講演や研究発表、各社の最新製品発表や展示ブースを通じて、産学官を横断した知見共有の場となっている。今回も半導体の最新アーキテクチャーから光インターコネクト、先端パッケージなど幅広い技術が発表された。人工知能(AI)需要の拡大を背景に、コンピュータの動作ルールの命令セットをオープンソース化した「リスク・ファイブ(RISC-V)」を活用した新世代チップの設計や、演算効率や省電力を追求する新製品群、データ移動効率を高めるインターコネクト技術の進展が注目を集めた。

写真 (左)パナソニックのブース、(右)村田製作所のブース(ともにジェトロ撮影)

(左)パナソニックのブース、(右)村田製作所のブース(ともにジェトロ撮影)

こうした潮流を受け、2つの基調講演が行われた。グーグルはAI向けインフラ戦略、ラピダスは新たなファウンドリー(半導体受託製造)モデルを提示した。

グーグル・ディープマインドのノーム・シャジール副社長は大規模言語モデル(LLM)の進化を振り返り、2017年のトランスフォーマー(注1)登場以降、モデルの規模拡大とスーパーコンピュータ活用によって精度が飛躍的に向上したことを説明した。その上で、今後のLLMの発展には単なる演算性能の向上だけでなく、メモリー容量・帯域、ネットワーク通信の強化、省電力化につながる低精度計算の活用、再現性が不可欠だと指摘した。これらの課題を克服することがAIの推論効率化や応用拡大につながるとし、そのためにはハードウエアとモデル設計の両方の進化が必要だと強調した。

写真 (左)グーグル・ディープマインドのシャジール副社長、(右)ラピダスの小池社長の基調講演(ともにジェトロ撮影)

(左)グーグル・ディープマインドのシャジール副社長、(右)ラピダスの小池社長の基調講演(ともにジェトロ撮影)

日本のラピダスの小池淳義・代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)は、同社が進める2ナノメートル(nm)半導体の技術開発を紹介した。北海道千歳市の先端工場「IIM-1」で2024年末のASML製極端紫外線(EUV)装置導入、2025年4月の初露光試験成功、6月には2nm GAAトランジスタが動作して測定可能な状態に到達、7月にはわずか12日間でウエハー処理完了といった進展を報告した。

ラピダスは、試作から量産まで従来120日かかる「ターンアラウンドタイム(TAT)」を世界最短の15日に短縮し、多品種の専用チップに柔軟に対応できる「完全枚葉式プロセス」を導入した。さらに、AIによる設計・製造同時最適化(DMCO)やキーサイトとの連携により、PDK(注2)の精度と歩留まりを高めている。こうした取り組みを通じて、「前工程と後工程を一貫させる新しい生産コンセプト」と「AI駆動の設計・製造最適化」による差別化を打ち出し、スピードと柔軟性を重視した新しいファウンドリー像を提示した。

(注1)文章や画像の要素間の関係を捉えるニューラルネットワークの新構造。生成AIの基盤技術。

(注2)半導体ファウンドリーが自社の製造工程に対応して提供する設計用データやルールのセット。

(松井美樹)

(米国)

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