プラボウォ大統領、大規模抗議デモを受け、労組幹部らと対話
(インドネシア)
ジャカルタ発
2025年09月05日
インドネシア各地で8月下旬、国民議会(DPR)議員への月額5,000万ルピア(約45万円、1ルピア=約0.009円)の高額住宅手当支給に対する反発から大規模な抗議デモが発生した(2025年9月1日記事参照)。8月25日にジャカルタで始まった学生中心のデモは全国の主要都市に広がり、28~29日には労働組合など他の団体も合流して抗議が激化、一部地域では治安部隊との衝突で死傷者も出た(「ビスニス」8月30日)。また、8月28日にジャカルタ中心部で、機動隊車両が抗議に参加していなかったオートバイ運転手をひいて死亡させる事件が発生し、その映像が拡散されたことで、警察の暴力への批判が一層高まった(「アンタラ」8月31日)。
こうした抗議活動の激化を受け、プラボウォ・スビアント大統領は8月31日にDPR指導部や政党党首らと緊急協議を行った(「アンタラ」9月2日)。本協議では、議員住宅手当の即時廃止と国会議員による海外出張の当面禁止が決定されたほか、抗議者を「愚か」と呼ぶなど不適切発言で批判を招いた数人の議員の議員資格が剥奪された(「アンタラ」8月31日)。
さらに、プラボウォ大統領は9月1日、大統領宮殿で労働組合代表と面会した。全インドネシア労働組合連合(KSPSI)のアンディ・ガニ会長やインドネシア労働組合連合(KSPI)議長のサイド・イクバル氏らが出席し、抗議活動の非暴力維持を確認したうえで、犯罪行為による資産の接収法案や雇用関連法案の早期審議(注)を要望した(「アンタラ」9月2日)。また、国会側も事態を重く見て譲歩を示し、9月3日にはDPR副議長のスフミ・ダスコ・アフマド氏が学生代表との面会で住宅手当を8月末で打ち切ったと明言し、謝罪した。
抗議活動が激化するさなか、インターネット上では、政府・議会への具体的な要望をまとめた「17+8の要求リスト」が拡散された。これは、インフルエンサーや市民活動家らが複数の市民・労働・学術団体の意見を取りまとめて発信したものとされ(「デティック」9月2日)、議員給与・手当の凍結や警察暴力の独立調査など短期17項目と、2026年8月末までの議会改革や公正な税制改革など長期8項目の要求から成る(「ビスニス」9月3日)。ムハンマド・ティト・カルナビアン内務相は9月2日、同要求リストに関し、政府内でどの項目が対応可能かを整理した上で、関係省庁間で調整する方針を示した(「デティック」9月2日)。今後は政府が労働組合や市民社会の要求をどこまで政策に反映するかが焦点となる。
なお、ジャカルタ特別州政府が9月1日と2日の在宅勤務を推奨したため、日系企業でも在宅勤務を実施する動きがみられた。9月3日以降は多くの企業で通常運営に戻っているもようだ。ジャカルタ市内での抗議デモは落ち着きつつあるが、今後も突発的な事態に備え、安全には十分留意することが求められる。
(注)犯罪行為による資産の接収法案は、汚職やマネーロンダリングなどによる犯罪で取得資産について、有罪判決の確定前に国家が没収可能とする仕組みを導入するかが争点となる。雇用関連法案については、2024年の憲法裁判所の判断により、法律2020年第11号(雇用創出オムニバス法)から独立した雇用法を2年以内に制定するようにとの命令が出ていることが背景にある。被雇用者により有利な内容が制定される可能性がある。
(八木沼洋文)
(インドネシア)
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