中国、WTOの途上国待遇を放棄、多国間貿易体制の維持強調
(中国、米国)
武漢発
2025年09月26日
中国の李強首相は9月23日、第80回国連総会の関連イベントで、中国がWTOの既存および新規の交渉で「特別かつ差別化された待遇(SDT)」(注1)を放棄すると発表した。
商務部国際貿易交渉代表を務める李成鋼・商務部副部長は同日の記者会見で、中国は2001年のWTO加盟後、SDTの恩恵を受けるとともに、積極的に多国間貿易交渉に参加し、交渉成果の創出や国際貿易の自由化、利便性向上に大きく貢献してきたと振り返った。また、覇権主義や保護主義が横行し、貿易戦争や関税戦争が相次いで発生する現在の世界情勢下、WTOは多国間貿易体制を維持するために積極的な役割を果たすことが求められていると述べた。このような背景の下、中国はSDTを放棄することで、多国間貿易体制の揺るぎない立場を支持する一方、これからも世界最大の発展途上国であることに変わりはなく、「グローバルサウス」の一員であり続けると強調した。
また、韓勇・商務部世界貿易組織司司長(注2)は同じ会見で、「方向性の明示」「信頼の回復」「発展の先導」という3つのキーワードを用いて、中国のSDT放棄措置がもたらし得る機会について説明した。「方向性の明示」については、国際経済・貿易秩序が大きな衝撃を受けている現在の世界で、中国は共通利益の実現を目標として、WTOの改革を支持し、模範的な効果の発揮に努めるとした。「信頼の回復」では、中国が今回の措置をもってWTO加盟国とともに国際的な義務を果たすという決意と責任を示すことで、多国間貿易体制に対する各国の信頼を一層高めるとした。「発展の先導」では、WTO加盟国のうち3分の2を発展途上国が占めており、中国の措置は、多国間貿易体制が発展課題に重点を置く契機になるとした。
米国は以前からWTOにおける中国の途上国待遇について、批判的な見解を表明していた。米国通商代表部(USTR)が2025年1月に発表した「中国によるWTO義務履行に関する議会提出報告」では、自国内の意見を引用した上で、「特定のWTO加盟国が発展途上国としての地位を主張し、不適切なかたちでSDTを求めることで、貿易交渉で義務履行を回避している」として、中国を含む一部の加盟国が「発展途上国」を自称してSDTを享受することの不当性に言及していた。
(注1)SDTは、途上国による貿易参画機会の拡大を促す措置や、途上国の貿易利益保護など、途上国を対象とした特別待遇を指す。
(注2)司は局、司長は局長相当。
(西島和希)
(中国、米国)
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