AI導入で世界貿易額は2040年までに40%近く押し上げ、WTO予測
(世界)
調査部国際経済課
2025年09月19日
WTOは9月17日、年次報告書「世界貿易報告(World Trade Report)」の2025年版を発表した。人工知能(AI)が世界貿易と経済成長に与える影響を多角的に分析している。報告書によれば、AIの導入によって、2040年までに世界の財・サービス貿易額は34~37%増加、特にデジタルサービス貿易額は42%増加する予測だ。また同年までに、世界全体のGDPは12~13%増加すると見込まれている。
AIツールは、サプライチェーンの可視化、通関手続きの自動化、言語障壁の低減などを通じて貿易コストを削減し、中小企業のグローバル市場への参入拡大に貢献している。WTOと国際商業会議所(ICC)の共同調査では、AIを活用する企業の約90%が貿易活動において利益を得ており、56%がリスク管理の改善を報告した。
他方で、AIの導入や活用度合いには格差が見られる。WTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長は「AI技術へのアクセスとデジタル貿易への参加能力は依然として極めて不均等だ」と指摘する。特に、デジタルインフラの整備やAI教育、国の政策整備の遅れなどにより、低所得国や中小企業でAI導入が進みにくい現状がある。
貿易措置の存在も、AIの導入や活用を阻む1つの要因となっている。高所得国および上位中所得国を中心に、AI利用を支える財(AI-enabling goods、注)に対する数量制限措置の導入が活発化しており、その数は2012年の130件から2024年には約500件に急増した。また、低所得国ではこれら財に対する関税が最大45%に達するなど、アクセスが制限されている。
こうした状況を踏まえ報告書では、あらゆる国・企業におけるAIの普及と経済成長を実現するために、開放的で予測可能な貿易政策の必要性を指摘している。AI利用を支える財の貿易額は2023年に2兆3,000億ドルに達したと推計されており、貿易を通じてこれら財へのアクセスを確保することは格差是正の重要な推進力となる。
加えて、報告書では、デジタルインフラや教育への投資拡充、AI関連規制に関する国際協調も不可欠とされている。WTOは、加盟国間の対話を促進し、AI関連のルール整備や能力構築支援を進めている。特に途上国や中小企業がAIの恩恵を享受できるよう技術移転や研修プログラムを提供し、国際貿易体制の中で包摂的な成長(inclusive growth)を実現することを目指している。
(注)WTOの定義で、AI技術の開発と生産を支える原材料、中間財、製品を指す。具体的な財のリストについては、報告書の付属書表A.1を参照。
(宮島菫)
(世界)
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