労働組合法改正案が国会を通過、施行に向けた労使間の意見調整を急ぐ
(韓国)
ソウル発
2025年09月02日
韓国政府は、8月24日に労働組合および労使関係調整法一部改正法律案(以下、労働組合法改正案)が国会本会議において議決されたと発表した。雇用労働部は今回の改正の意義について、「変化した労働環境と産業構造に対応し、権限と責任の不一致がみられる制度的欠落を解消する」ことや「元請け・下請けなど多層的な労使構造における実質的な交渉権の保障、過度な損害賠償請求による労働権行使の萎縮などを解決する法的基盤を整えた」ことを挙げている。具体的な改正内容は次のとおり。
- 使用者性の拡大:特定の労働条件について実質的・具体的に支配・決定できる地位にある元請けなどは、その範囲内で労働組合法上の使用者となり、交渉義務を負担する(第2条第2号)。
- 労働者でない者の組合加入制限の削除:一部の労働者でない者が労働組合に含まれているという理由だけで組合の自主性と主体性が否定されないようにする(第2条第4号)。
- 労働争議の範囲拡大:(1)事業経営上の決定の中でも、整理解雇のように労働条件と密接な関連があり労働条件の変更を伴う場合、(2)使用者が一部の労働条件(賃金、労働時間、安全衛生および災害予防など)に関する団体協約に違反した場合を、労働争議の対象に含む(第2条第5号)。
- 損害賠償請求の制限:不法行為を無条件に認めるものではなく、その程度に応じて責任範囲を合理的に制限し、正当な法的責任と権利保護のバランスを図る仕組みを設ける(第3条)。
- 損害賠償責任の免除:使用者が争議行為などによる損害賠償責任を免除できる旨の規定を新設し、労使紛争の円満な解決を図る(第3条の2)。
同部は、6カ月後の施行に向けて、経営者および労働者双方からの運用に関する意見を常時収集できる窓口を設置し、持続的かつ体系的なフィードバックを行う計画だ。
労働組合法改正案は「黄色い封筒法」とも呼ばれ、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権時にも当時の野党「共に民主党」が国会で発議したものの、尹前大統領の拒否権行使によって廃案となっていた。また、産業界は、労働組合法改正案が労働者の権利保護の趣旨に過度に偏っており、健全な労使関係や経営環境に悪影響を与えうると懸念していた。
在韓日系企業をはじめとした在韓外資系企業の間でも懸念が広がっている。毎日経済新聞(2025年8月27日付)は、在韓外国企業連合会(KOFA)(注)が労働組合法改正案施行後の韓国内での投資意向について、外資系企業100社を対象に実施したアンケート調査の結果を紹介した。それによると、回答企業の36%が「韓国国内での投資縮小または韓国拠点撤退を検討中」と回答した。
また、同紙は、「『黄色い封筒法』による波紋が大きくなれば、外資系企業はもちろん韓国企業も海外に脱出しようとする現象が加速する恐れがある」「政府は経済界の立場も考慮した補完立法を急ぐべきだ」といった経済界の懸念の声を紹介した。
(注)在韓外国企業と韓国政府間のコミュニケーションを支援する非営利団体で、1999年に設立された。
(橋爪直輝)
(韓国)
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