人気キャラクター「ラブブ」、欧州での知財戦略に課題
(EU、オーストリア)
デュッセルドルフ発
2025年09月08日
オーストリア特許庁は9月1日、自庁の公式サイトで、香港のデザイナー、カシン・ローン(Kashin Lung)氏が創作したキャラクター「ラブブ(Labubu)」の世界的な人気の拡大と、それに伴う知的財産権保護の課題を紹介した(同庁サイト)。ラブブは中国企業ポップマート(POP MART)が販売するブラインド式(注1)の玩具で、2024年4月にKポップグループの「ブラックピンク(BLACKPINK)」のリサ氏が愛用したことで爆発的な人気を獲得したとされる。
ポップマートは2024年9月にEUで「LABUBU」の商標を欧州連合知的財産庁(EUIPO)に出願(出願番号:1819536)したが、トルコ企業が自社の商標「BUBU」と混同される可能性を根拠に異議を申し立てている(注2)。一方、イタリア企業による「LABUBU」の出願(同番号:019188715
)に対しては、ポップマートが自身の商標との混同と、「LABUBU」が既に著名になっていることを根拠に異議を申し立てている。ただし、9月2日時点で著名性を裏付ける証拠は十分に提出されておらず(ジェトロ調べ)、一般的に、実務上も著名性に基づく異議申し立ては立証の難しさから、認容されにくいとされる。加えて、先述のトルコ企業の異議申立てによってポップマートの商標自体が登録されなければ、自身の商標を根拠とする異議も認められない可能性がある。
また、意匠による保護も可能だが、新規性がその要件の1つで、既に市場で知られていた場合は登録が認められない。9月2日時点でラブブの意匠登録は確認されておらず(ジェトロ調べ)、仮に出願中で未公開だとしても、新規性の要件を満たさない可能性が高い。EUでは、未登録意匠も保護され得るが、期間が公開から3年のみの上、模倣品に対する権利行使の立証負担が大きい。著作権による保護も可能だが、量産型キャラクター商品では、類似品との境界が曖昧になりやすく、権利行使に当たっては実務上のハードルが高いとされる。
オーストリア特許庁は、こうした事例を通じて人気が先行することで知財戦略が後手に回るリスクを指摘しており、今回の事例は、特に欧州市場への進出を目指す日本企業にとっても重要な示唆となる。
(注1)開封するまで商品の中身が分からない状態で販売される商品。代表的なものは食品玩具やカプセルトイなど。
(注2)欧州連合商標(EUTM)制度では、商標出願が形式審査を通過すると、EUIPOによって公開され、登録に対する異議を3カ月間受け付ける。この異議を申し立てる理由〔欧州理事会規則(EUTMR)第8条〕は、主に3つに分類される。(1)先に登録されている商標との混同のおそれ(1項)、(2)著名な商標の評判や価値の毀損(5項)、(3)代理人による無断出願、未登録商標、地理的表示など、その他の権利侵害(3,4,6項)。
(吉森晃、佐藤吉信)
(EU、オーストリア)
ビジネス短信 1846a65122a507b6