「つながらない権利」、小規模事業者にも適用開始
(オーストラリア)
シドニー発
2025年09月03日
オーストラリアで、2024年8月26日から法制化され、国内の従業員を対象とする「つながらない権利=通信拒絶権(Right to disconnect)」が1年の猶予期間を経て、8月26日から小規模事業者にも適用が開始された。これは、2024年2月のフェアワーク法改正に合わせて制定された「抜け穴を防ぐ法(Closing Loopholes Acts)」の改正によって新たに規定した権利だ。
「つながらない権利」とは、従業員が勤務時間外にメールや電話などで業務上の連絡を受けた場合、応答を拒否できる権利で、対象は雇用側と従業員との連絡に限らず、顧客や取引業者など第三者との連絡も含まれる(ただし、その連絡が妥当な場合を除く)。中小企業開発公社(SBDC)は、小規模事業者は柔軟な勤務形態が求められる中、課題にもなり得ると警告している。サマータイムが導入されているオーストラリアでは、西部と東部で最大19時間連絡が取れない可能性もあり、異なるタイムゾーンで事業や顧客を抱える企業にとっては課題となり得るとし、健全なワークライフバランス促進と同時に、課題認識の重要性を説いている。
こうした取り組みは、コミュニケーション手段の多様化とともに勤務時間が増加するなど、過労問題の発生を背景に、他国でも取り入れられてきた。オーストラリアでは法制化の開始当初、対象企業を限定していたが、1年間の猶予を経て、従業員15人未満の小規模事業者にも適用することとなった。適用対象はフルタイムやパートタイムを問わず、臨時従業員も含まれる。オーストラリア研究所の調査によると、オーストラリア人の平均無給残業時間は年188時間だという。
フェアワーク委員会(FWC)は従業員と雇用者の双方に対し、職場でのオープンかつ効果的なコミュニケーションを実践する責任を求めている。紛争に至った場合は、当事者間での解決が求められるものの、FWCが介入して命令に応じず、従業員による応答拒否が妥当と認められる場合、個人(雇用主)に最高1万8,780オーストラリア・ドル(約182万1,660円、豪ドル、1豪ドル=約97円)、または企業に9万3,900豪ドルの罰金が科せられる可能性がある。
(伊東佐和子)
(オーストラリア)
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