欧州委、中小企業向け自主報告基準を発表、負担軽減と競争力強化を支援
(EU)
ブリュッセル発
2025年08月14日
欧州委員会は7月30日、中小企業向けのサステナブルファイナンスに関する自主的な報告基準を提示する勧告を採択したと発表した(プレスリリース
)。開示義務を簡素化するオムニバス法案の流れを受け、中小企業は企業持続可能性報告指令(CSRD)の適用対象から外れる提案がなされているものの、対象の大企業からの開示要求にかかる負担を軽減する狙い(2025年3月7日記事参照)。CSRD対象企業が中小企業に要求できる情報を同基準に沿ったものに限定する。同時に、中小企業にとっても情報開示を通じ、サステナブルファイナンスへのアクセスを向上し、自社の持続可能性パフォーマンスへの理解を深めることで、競争力の強化につながることを後押しするもの。なお、今回の勧告は、自主的な報告基準に関する正式な委任規則が採択されるまでの一時的なものだ。今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会でCSRDの簡素化案について審議されていく中で、同基準も変更される可能性はある。
今回発表された報告基準は、零細企業向けの最低要件(基礎モジュール)と、金融機関や投資家、企業顧客から求められ得る追加開示(包括モジュール)から構成される。どちらの基準も、環境・社会・ガバナンス(ESG)の3要素に基づく。基礎モジュールは、環境(5)、社会(3)、ガバナンス(1)の9つの基準、包括モジュールは、環境(2)、社会(3)、ガバナンス(2)の7つの基準となっている。例えば、環境基準の1つである温室効果ガス(GHG)排出に関して、基礎モジュールはスコープ1(直接排出)、スコープ2(間接排出)に関する報告であるところ、包括モジュールは、スコープ3(バリューチェーン全体)を含めた削減目標を定めている企業は、報告の対象とするかたちになっている。また、包括モジュールの社会基準の1つには、自社従業員に関する追加情報として人権の項目があるが、自社で行動規範または人権ポリシーを定めているか、相談窓口を設置しているか、設問に回答していくかたちとしている。欧州委は、さらなる負担軽減のため、必要データの自動抽出などデジタルツールの活用を検討している。
欧州中小企業連合会(SMEunited)は7月31日、同報告基準を評価した(プレスリリース)。多くの中小企業は取引先から複数の異なる要求や質問を受けているところ、手元に当該データがなく対応に苦慮している現状を指摘。自主的報告基準の設定により、中小企業に求め得る情報が明確になる点を評価するとともに、具体的な報告に向けた支援の必要性を強調した。
(薮中愛子)
(EU)
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