アルゼンチン、歳出拡大を巡る政府と野党間の攻防が激化

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2025年08月14日

アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は8月4日、政令534/2025号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布し、歳出拡大につながる野党提出の法案に対して拒否権を行使した(注1)。

今回、拒否権の対象となったのは、法案27791号(年金の増額)、法案27792号(年金モラトリアム)、法案27793号(障害者に対する特別年金などの支給)の3つ。法案27791号は、8月以降に支給される年金を7.2%増額することに加えて、インフレ率に応じて最大11万ペソ(約1万2,100円、1ペソ=約0.11円)の予備的経済支援金も追給すること、独自の年金制度を維持する州の年金基金に対して国家が資金を移転することなどが規定されていた。法案27792号は、年金の掛け金の拠出期間が不足している人の未納期間を救済する措置で、過去にも実施されたものを再度実施しようというもの。法案27793号は、年金の掛け金を拠出していない障害者や高齢者に対しても一定額の年金や障害者向け医療支援制度を拡充することが規定されていた。

これらの法案は、上下両院で承認されていた。ミレイ大統領は政令の中で、これらの法案により増加する歳出は、2025年はGDPの0.9%、2026年は同1.68%に達し、2025年度の連邦政府の基礎的支出を6.0%押し上げ、結果として財政黒字の目標達成が困難になるとして、財源に根拠のない支出は認めないとの立場を明確にした(注2)。

野党勢力は、2024年7月8日に公布された「アルゼンチン人の自由のための基盤および出発点に関する法律(基盤法)」が政府に与えた立法権に基づき公布された政令のうち、次の5つの政令の廃止を目指している。これらの政令は、主に歳出削減を目的としたものだ。

  • 政令340/2025号(国内水運市場の自由化)
  • 政令345/2025号(複数の文化関係政府機関の再編・縮小)
  • 政令351/2025号(国立遺伝子データバンクの再編・縮小)
  • 政令461/2025号〔国家道路交通安全庁(ANSV)などの再編・縮小〕
  • 政令462/2025号〔国立農業技術研究所(INTA)などの再編・縮小〕

加えて野党勢力は、公立大学の資金確保や教職員の待遇改善を目的とした「大学教育資金および教員給与の再構成に関する法案」と「小児医療機関向け予算の拡充を目的とした小児医療および医療研修制度に関する緊急事態法案」を国会に提出。これらの法案と上述の5つの政令を廃止する法案は、下院で承認された。

ミレイ大統領は、上院でこれらの法案が可決されても拒否権を行使する構えだ。ミレイ大統領は8月8日に行った国民に向けた演説で、こうした動きを厳しく批判した。ミレイ政権の歳出削減には、多くの州知事が不満をためている。2025年10月26日に実施される国会議員中間選挙を控え、国会、特に上院で大きな影響力を持つ州知事と政府の駆け引きが続くとみられる。

(注1)アルゼンチンでは、大統領は国会で可決された法案の一部または全部に拒否権を行使し、それを無効とすることができる。大統領の拒否権を覆すには、上下両院で再度決を取り、それぞれ3分の2以上の賛成が必要となる。

(注2)アルゼンチン政府がIMFに提出した意向書(LOI)においても、「われわれは、マクロ経済の安定性を脅かす可能性のある、国会による新たな支出イニシアチブに対して、拒否権を含む法的手段により引き続き対抗し、財政目標を達成するために必要に応じて代替案を検討する用意がある」としている。

(西澤裕介)

(アルゼンチン)

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