スイス産業界、米国の輸入関税39%に引き上げに衝撃
(スイス、米国)
ジュネーブ発
2025年08月04日
スイスのカリン・ケラー=ズッター大統領は7月31日、米国相互関税の交渉期限を前にドナルド・トランプ米国大統領と最終協議を行ったが、トランプ大統領にとって、貿易赤字は依然として重要な問題であり、スイス・米国間で交渉された共同声明について合意に至らなかったことをX(旧Twitter)に投稿した。
トランプ大統領は同日、4月に発表した相互関税を修正する大統領令を発表しており(2025年8月1日記事参照)、スイスに対する相互関税率は31%から39%に引き上げられた。スイスとともに欧州自由貿易連合(EFTA)を構成するアイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタインに対する相互関税率が15%となる中、スイス産業界に衝撃を与えている。特にリヒテンシュタインとはスイスは関税同盟を締結している。
スイス連邦参事会(内閣に相当)は8月1日、米国の相互関税に対する声明を発表し、これまでの米国との2国間協議の進展とスイスの建設的な姿勢にもかかわらず、米国がスイスからの輸入品に一方的な追加関税を課す意向を示したことに対して遺憾の意を表明した。トランプ大統領が発表した追加関税は、過去数カ月にわたり集中協議を行い、7月4日にスイス連邦議会で承認された共同声明案とは大きく異なっているとした。
スイスは今後も、米国の関係当局と連絡を取り、交渉による解決策を模索する意向を示している。また、スイス連邦議会は新たな状況を分析し、今後の対応を決定するとしている。
スイスは対米輸出に占める工業製品の割合が高いため、時計産業、機械・精密機器が追加関税の大きな影響を受けるとし、また食品産業も影響を受けるとしている。
スイス国内の機械・電気産業(MEM産業)を束ねる最大の業界団体であるSWISSMEM工業会は8月1日、米国のスイスに対する39%の輸入関税について声明を発表し、「驚愕(きょうがく)している」「これまでの交渉が、米国大統領の一貫性のない決断によって阻まれた」「この決定は数万人の産業雇用を危険にさらす」とシュテファン・ブルプバッハー理事長は指摘した。声明では、2025年初から米ドルがスイス・フランに対して10%下落していることもあり、スイスに課される関税は、競合国の関税の数倍に上るとし、その結果、スイス技術産業の受注量の平均10~15%を占める対米輸出は、短期から中期的に消滅する恐れがあるとした。企業は、例えば、関税が大幅に低いEUなどへの海外移転を余儀なくされるほか、多くの中小企業は米国市場を完全に失うことになる。技術産業だけではなく、他のすべての輸出分野に影響を与えると指摘した。スイスは収入の2分の1を対外貿易に依存しているため、他の世界市場へのアクセスを継続的に改善することが不可欠とし、マレーシア、タイ、メルコスールと最近合意した自由貿易協定に反対する国民投票が実施されないよう牽制した。
また、機械、電気、金属加工業界の中小企業による業界団体であるSwissmechanicも同日、「米国の過剰な関税はスイスの産業基盤を脅かしている」と指摘、スイス産業における中小企業への長期的な影響について警告する声明を発表した。
(田中晋)
(スイス、米国)
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