アルゼンチンで野党が歳出拡大へ攻勢、改革の一部も無効化
(アルゼンチン)
ブエノスアイレス発
2025年08月27日
アルゼンチンの上院は8月22日、2024年7月8日に公布された「アルゼンチン人の自由のための基盤と出発点に関する法律」(通称、基盤法、オムニバス法)が行政府に与えた立法権限および大統領の権限で公布された、行政改革のための次の5つの政令を無効にすることを審議し、3分の2以上の賛成を得てこれを可決した。
- 政令340/2025号(国内水運市場の自由化)
- 政令345/2025号(複数の文化関係政府機関の再編・縮小)
- 政令351/2025号(国立遺伝子データバンクの再編・縮小)
- 政令461/2025号〔国家道路交通安全庁(ANSV)などの再編・縮小〕
- 政令462/2025号〔国立農業技術研究所(INTA)などの再編・縮小〕
また、野党提出の公立大学への支出を拡充する「大学教育資金および教員給与の再構成に関する法案」と、「小児医療機関向け予算の拡充を目的とした小児医療および医療研修制度に関する緊急事態法案」の2つの法案も、下院に続いて可決した。ハビエル・ミレイ大統領はこれらの法案に対して拒否権を行使するとみられている。
また、8月20日には、8月4日に政令534/2025号を通じて大統領が拒否権を行使した法案27791号(年金の増額)、法案27792号(年金モラトリアム)、法案27793号(障害者に対する特別年金などの支給)のうち、年金の増額と障害者特別年金の2つの法案への拒否権を覆すか否かが下院で審議された。年金の増額法案への拒否権は維持されたが、障害者特別年金法案については拒否権を覆すことに3分の2以上が賛成し可決。今後、上院で審議される。上院でも可決されて拒否権が覆された場合には、22年ぶりのこととなる。障害者特別年金法案により、2025年はGDPの0.26%、2026年は同0.47%の歳出増につながる。なお、年金モラトリアム法案への大統領の拒否権を覆すか否かはいまだに審議されていない。
さらに8月20日、連邦政府の裁量で州政府に分配することができた税収の1%について、連邦政府の裁量ではなく自動的に各州に配分するよう法律を改正する野党提出の法案も、7月10日の上院に続いて、下院でも可決された。ただし、3分の2以上の賛成票が集まらない状態で可決されたため、ミレイ大統領が拒否権を行使すれば、それを覆すことはできない可能性がある。
足元では中間選挙は与党連合の優勢とみられているが、上下院で圧倒的に少数の議席しか持たない与党は、連合相手とともに10月26日の国会議員中間選挙で議席を増やし、厳しい国会の運営体制を変えることができるかが注目されている。
(西澤裕介)
(アルゼンチン)
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