シリコンバレーでAI人材争奪戦が過熱、米スタートアップのウインドサーフが実質解体
(米国)
サンフランシスコ発
2025年08月12日
大規模言語モデル(LLM)を活用したコーディング支援ツールを開発する創立2年の人工知能(AI)スタートアップのウインドサーフが7月にグーグルと同業のコグニションによって分割吸収され、8月5日には実質的に解体された。AI人材を巡る争奪がシリコンバレーで激しさを増す中、同社の事例は企業全体ではなく、創業者や主要技術者のみを引き抜く「リバース・アクハイヤー(reverse acquihire)」の典型例として、注目を集めている。
2025年5月に同社はオープンAIによる約30億ドルの買収交渉を進めていたが、主要出資者マイクロソフトがウインドサーフの技術に対するアクセス権を求めたことで交渉は決裂した。7月11日にウインドサーフの最高経営責任者(CEO)バルン・モーハン氏や共同創業者を含む主要人材がグーグル・ディープマインドに移籍し、グーグルは非独占ライセンス契約により約24億ドルを支払った。移籍人材には複数年分の報酬が提示されたとされる。
一方、グーグルに移籍しなかった約200人の社員と知的財産、製品ブランドなどの残余資産は、コグニションが非公開額で取得した。コグニションは買収時に「世界最高レベルの人材を迎える」「全社員に株式報酬を現金で支払う」と発表したが、8月5日に30人を解雇し、残る社員には9カ月分の給与を提示する退職パッケージを提供した。継続勤務には「週6日出社、週80時間超」勤務することが求められたという。
このように、企業全体を買収するのではなく、創業者と主要人材、技術チームを高額報酬で引き抜き、技術はライセンス契約で取得し、投資家には補償を行う一方、一般社員にはほぼ何も残らないというリバース・アクハイヤーの動きはほかにもみられる。インフレクションAIがマイクロソフト(2024年3月)、アデプトがアマゾン(同6月)、キャラクターAIがグーグル(同8月)に、それぞれ人材を引き抜かれるかたちで同様の動きが確認されている。
ジェトロがAIスタートアップCEOに行ったヒアリングによると、スタートアップの評価額が高騰するにつれ、従来型の買収(M&A)は難しくなり、リバース・アクハイヤーが選ばれる傾向があるという。AI分野では、少数の研究者にブレークスルー(画期的進歩や発展)技術が集中するため、人材を直接獲得する方が効率的という判断も働いているという。
(松井美樹)
(米国)
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