アゼルバイジャンとアルメニアが和平共同宣言に署名、輸送路開発に米国が関与

(アルメニア、アゼルバイジャン、米国)

調査部欧州課

2025年08月13日

アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領とアルメニアのニコル・パシニャン首相は8月8日、米国のドナルド・トランプ大統領立ち会いの下、和平実現に向けた共同宣言に署名した。宣言には、アゼルバイジャンとアルメニアが最終的な和平協定の署名・批准に向けて行動を続けることや、アルメニア領内にあるアゼルバイジャンの飛び地のナヒチェバン自治共和国と同国本土間の輸送ルート開発に米国が関与することなどが盛り込まれた。

アゼルバイジャン領内でアルメニア系住民が多く住んでいたナゴルノ・カラバフ自治州の帰属をめぐり、両国は30年余りにわたり対立していた。2023年9月のアゼルバイジャンによる軍事作戦により、アルメニア系勢力が降伏、アゼルバイジャン側が同地域の支配権を掌握した。トランプ大統領は「多くの人々が解決を模索したが、成功しなかった。この合意により、ついに和平が実現した」と共同宣言を祝福した。

最終的な解決には、アルメニアとアゼルバイジャン間での和平協定の締結が必要だ。共同宣言後、両国外相が和平協定草案に仮署名したが、アゼルバイジャン側は協定締結の条件として、アルメニアの憲法改正を挙げている。同憲法の中で言及のある1990年の独立宣言の中で、ナゴルノ・カラバフを領土として主張する文言が含まれるためとされる。共同声明署名後のインタビューで、アリエフ大統領は「(アルメニアの憲法が)改正されない限り、和平協定を締結することはできない」と注文を付けた。

アゼルバイジャン本土とナヒチェバン自治共和国間を結ぶルートは「ザンゲズル回廊」と呼ばれ、アゼルバイジャン側が設置を求めていた。宣言ではアルメニアが米国と協力して、「国際平和・繁栄のためのトランプ・ルート(TRIPP)」と名付けた事業を実施する。「ポリティコ」(8月7日)によると、ザンゲズル回廊をTRIPPと位置づけ、アルメニアは米国に同回廊の土地を独占的に開発する権利を99年間提供する。米国は、回廊上に鉄道、パイプライン、光ファイバーなどを敷設するコンソーシアムに土地を転貸する。

このほか、アルメニア、アゼルバイジャンはそれぞれ米国と協力文書を締結した。アルメニアは地域の輸送ハブを担うため推進するプロジェクト「平和の十字路」のための能力開発、人工知能(AI)および半導体分野でのイノベーション、エネルギー安全保障の各分野での協力文書を締結した。

アゼルバイジャンは、米国と戦略作業部会設立に関する覚書を締結した。作業部会で、a.地域のコネクティビティ、b.AIやデジタルインフラなどの分野での投資、c.防衛装備品の販売やテロ対策を含む治安の3分野で協力の議論を行い、2国間関係を戦略的パートナーシップのレベルに引き上げる。

(浅元薫哉)

(アルメニア、アゼルバイジャン、米国)

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