週40時間労働導入に向けたフォーラム終了、自動車業界から導入に慎重な声

(メキシコ)

メキシコ発

2025年07月22日

メキシコ労働・社会保障省(STPS)は「週40時間労働の導入に向けたフォーラム」の6回目をキンタナロー州で7月7日に開催した。当初は全7回の開催予定としていたが、6回で終了となった。

フォーラム全体を通じて、制度導入を進めるに当たって重要視された点は次のとおり。(1)労働時間の削減によって給与額が下がらないこと、(2)制度の「段階的」な導入、(3)産業の多様性と独自性に留意、(4)生産性を追求し、「労働時間の削減」と「企業の持続可能性」の両立、(5)企業・労働者・政府の3者間の対話継続、(6)家族の世話といった社会的役割を無意識のうちに担い、報酬の得られない「ダブルワーク」をする女性に前向きな影響を与えること、(7)残業時間や組織体制の見直し(「エル・エコノミスタ」紙7月7日付)。STPSはこれらを踏まえて最終案をまとめ、9月1日から開会する通常国会に提出する予定だ。

メキシコ製造業の中核をなす自動車業界では、導入に向けた慎重な姿勢がみられる。7月7日に行われたオンライン記者会見で、メキシコ自動車部品工業会(INA)は「80万人以上の雇用を創出する業界として、この制度導入に当たってINAが担う責任の大きさを認識している」と前置きした上で、「各企業が被る影響が最小限になるよう、段階的かつ秩序ある導入を進めるべきだ」と主張している。ガブリエル・パディージャ事務局長は「自動車業界の『ジャスト・イン・タイム』の枠組み、1日24時間・週7日の生産体制、グローバルサプライチェーンの厳格な達成要件に鑑み、企業規模や業種に合わせた柔軟な制度導入が必要不可欠だ」とし、5年間にわたる段階的な導入と、導入をサポートする支援策の拡充の必要性を強調した。

メキシコ自動車工業会(AMIA)のオドラシール・バルケラ氏は制度導入の時期について、2026年に予定されている米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)見直しの結果を待ち、必要な調整を行ってから導入を開始すべきだと主張している。加えて、現行の連邦労働法では、週の残業時間を9時間と定めているが(注)、最低でも週15時間に変更し、その適用に柔軟性を持たせることも必要だとした。

それぞれのフォーラムの様子は7月15日にSTPSの公式サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公開された動画から確認できる。

(注)連邦労働法第66条では、残業時間は1日3時間、週3日までを上限とすることを定めている。それを超える場合には、超えた分の労働に対しては時給の3倍の残業代を支払う必要が生じるが、合法的な対応というわけではない。従って、違法行為として労働査察官などに指摘されるリスクがある。

(渡邊千尋)

(メキシコ)

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