「大きく美しい1つの法案」上院修正案に下院の共和党財政保守派が批判文書
(米国)
ニューヨーク発
2025年07月03日
米共和党下院の財政保守派(フリーダム・コーカス)は7月2日、上院で可決された「大きく美しい1つの法案(OBBB)」修正案(2025年7月1日記事参照)を批判するメモを発表した(政治専門誌ポリティコ7月2日)。このメモでは、上院修正案の問題点について15項目が挙げられているが、このうち特に重要な批判は次の7項目。ドナルド・トランプ大統領やマイク・ジョンソン下院議長(共和党、ルイジアナ州)らは、フリーダム・コーカスに対して法案賛成を呼びかけ調整を続けているが、7月2日夕刻時点ではまだ賛同を得られるには至っていないもようだ。
(1)財政赤字の増加
OBBBの下院案では、1ドルの減税につき1ドルの歳出削減を実施する規定が盛り込まれているが、上院修正案はこの規定に沿っていないと批判。上院採決直前の修正で盛り込まれた州税に係る税額控除(SALT)の拡大や地方病院基金の増額などの影響を含めない場合であっても、7,610億ドル(利子を加えた場合には1兆3,000億ドル)の規定外財政赤字が生じると批判している。
(2)インフレ削減法(IRA)に基づくクリーンエネルギー関連の税額控除(グリーン・ニュー・スキャム)の終了に失敗
OBBBの上院案では、太陽光・風力発電によるクリーンエネルギー生産に対する税額控除(IRC45Y)について、原則として2027年までの運転開始が求められる一方で、1.法律制定後1年以内に建設開始するプロジェクトについても税額控除が認められる特例措置などが盛り込まれている、2.下院案では終了することとなっていた蓄電池や炭素回収に対する税額控除が復活している、3.これら税額控除の権利を他者に移転する仕組みが復活している、4.下院案で盛り込まれていた「懸念すべき外国の事業体」を排除するための規制が弱められている、など取り組みが半減していると批判。
(3)不法移民のメディケイド(低所得者層向けの公的医療保険)受給を阻止するのに有効な規定を削除
上院修正案は、不法移民のためのメディケイドに資金を投入している州に対する罰則(連邦支援を引き下げる規定)を廃止したため、受給を防げなくなると批判している。
(4)性転換手術や人工妊娠中絶への医療保険適用
下院では、トランスジェンダーの性転換手術や人工妊娠中絶手術にオバマケア、メディケイドや子供向け医療保険(CHIP)が適用されないよう、これらに関する資金提供を禁止したが、上院案ではこれが阻止できないと批判している。
(5)プランド・ペアレントフッドの補助金
性と生殖に関する医療サービスを提供する非営利組織プランド・ペアレントフッド(全米家族計画連盟)への連邦補助金を10年間停止するとしていたが、上院案では1年の停止にとどまっていると批判している。
(6)アラスカ州への過剰な配慮
上院では、法案の通過に必要な票数を確保するため、採決直前にいくつかの修正が盛り込まれたが、この中には低所得者向け食料支援プログラム(SNAP)に関する特例措置などアラスカ州を対象とする特例措置も含まれている。これに関して、無駄・不正・乱用を助長するものと批判している。
(7)民主党州に恩恵を与えるSALT控除の拡大
上院財政委員会が示していたSALT控除上限引き上げの見送りを撤回し、控除上限を4万ドルに引き上げたほか、代替ミニマム税の変更などを考慮すると、下院案より実際には3分の2も税額が増加していると批判している。
このほかにも、SNAPの浪費・不正・乱用を防止するための規定が弱体化したことや、子供向け公的預金口座(トランプ・アカウント)を不法移民が保有することを防止する措置の緩和なども批判の対象となっている。
(加藤翔一)
(米国)
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