シンガポール政府系投資ファンドGIC、北米・南米の投資比率が約5割に拡大
(シンガポール)
シンガポール発
2025年07月29日
シンガポール財務省管轄下の政府系投資会社GICは7月25日、2025年3月期の年次報告書で、同社の投資ポートフォリオに占める北米・南米の割合が49%(注)と、前年(44%)から拡大したことを明らかにした。アジア大洋州の割合は24%で、前年(28%)から縮小した。欧州・中東・アフリカの割合は20%と、前年と変わらなかった。
GICは、同じく財務省管轄下の投資会社テマセク・ホールディングスと異なり、運用資産額を公表していない。シンガポールの英字紙「ストレーツ・タイムズ」(7月25日付)によると、リム・チョウ・キャット最高経営責任者(CEO)は同月24日の会見で、北米・南米の割合が拡大した理由について、同地域の既存保有資産の価値が上昇したことと、特に米国に対する資本投入によるものだと説明した。米国はGICにとって最大の投資先となっている。
同社の2025年3月末までの20年間の実質運用利回りは年平均3.8%で、前期(3.9%)を下回り、2年連続で低下した。リムCEOは発表で「投資家は現在、世界の変動に直面しており、循環的、構造的、基盤的な変化が激しさを増している」と指摘し、「変化には、国際貿易体制や人工知能(AI)、気候変動の影響が含まれる」と述べた。
根本的な変化もたらすAI、気候変動分野に注目
GICは年次報告書の中で、AIと気候変動が経済の仕組みや投資のあり方などに「根本的な変化」をもたらしているとの見方を示した。GICはAI分野の投資機会について、(1)半導体メーカーやデータセンターのような基盤を提供する「イネーブラー(enablers)」、(2)AIを活用して製品を開発・販売するソフトウエア会社などの「収益者(monetizer)」、(3)AIを業務に統合する「導入者(Adopter)」の3つに分類している。また、気候変動分野では、電化、エネルギー効率化、気候変動適応に長期的な投資機会を見いだしている。
また、GICは2023年にAI協議会を設置し、社内のAI導入も積極的に推進している。GICは社内監査や大規模データの分析にAIを活用しているほか、過去約40年間の投資運用実績を基に質問や課題を抽出する「仮想投資委員会」のようなツールを開発しており、投資プロセスでの活用も進めている。
(注)2025年、前年(2024年)ともに、3月31日時点のデータ。
(本田智津絵)
(シンガポール)
ビジネス短信 ebcffe3d140b7839