英政府、電力市場制度見直しの決定事項を発表、ゾーン料金の導入は見送り
(英国)
調査部欧州課
2025年07月17日
英国政府は7月10日、電力市場整備に関する見直し(Review of Electricity Market Arrangement、REMA)の決定事項を発表した。REMAは、電力市場制度が脱炭素化、高い費用対効果、安定的な電力システムを支えることを目的として、2022年に開始された。英国政府は今回の発表の位置付けにつき、再生可能エネルギー(再エネ)支援スキーム差額決済契約制度(Contracts for Difference、CfD)(注1)の第7ラウンドや経済全体における重要性を考慮し、投資家に確実性を与えるためにこのタイミングで決定事項を発表するものと説明。分析の全文や改革に基づく実行計画は2025年内にあらためて発表予定とした。
本決定では、REMAの主要な検討項目の1つだった、電力卸取引市場(注2)におけるゾーン料金(zonal pricing、2024年3月28日記事参照)について導入しないことを決定。理由として次の4点を挙げた。
- 発電事業者へ電力網を効率的に活用できる立地への投資を促すシグナルが、どの程度生じるか不透明であること
- 価格差により生じるリスクが消費者向けの電気料金に価格転嫁される可能性があること
- 投資家にリスクと不確実性を与える可能性があること
- 複雑さゆえに導入には課題とリスクを伴い、最低7年間を要すること
その上で、全国一律価格の電力卸取引市場を維持することを前提に、大胆な改革と戦略的、計画的な調整を行うとした。具体的には、接続料金や既にゾーン料金が適用されている送電網利用料金の見直しにより予見可能な立地シグナルを発信することや、需給調整の効率化によるコスト削減などを挙げた。
本発表について、英国産業界からは賛否様々な意見が上がっている。フィナンシャル・タイムズ(7月10日付)によると、エネルギー大手SSEの次期最高経営責任者(CEO)マーティン・ピブワース氏と、鉄鋼産業の業界団体UKスチールのガレス・ステイス事務局長は、(電力卸取引市場における)ゾーン料金導入は電気料金の高騰を招くとして政府の決定を歓迎した。他方、分散型エネルギー協会のキャロライン・ブラッグCEOは、断片的な調整では全ての人に低廉な料金を提供することはできないと非難した。また、エネルギー供給会社オクトパスエナジーは、政府決定を受けて声明を発表。ゾーン料金は電気料金の削減をもたらし、かつ18カ月で導入可能とし、電気料金の削減が可能で2028年までに導入できる代替案を政府に求めた。
(注1)発電事業者の再エネへの投資リスクを減らすため、運転開始から15年間、対象となる電源の固定価格(ストライクプライス)と市場価格の間の変動する差額を政府が補填(ほてん)する制度。事業者はオークションで、技術ごとに固定価格と設備容量を提示して競う。
(注2)小売電気事業者などが消費者に販売するための電力を発電事業者などから購入する市場。
(齊藤圭)
(英国)
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