万博で採用された「ビジネスと人権」ルールと実践方法の講演会、大阪で開催
(日本、世界)
大阪本部海外ビジネス推進課
2025年07月04日
ジェトロ・アジア経済研究所(アジ研)とジェトロは6月26日、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)における「ビジネスと人権」の取り組みや、企業による「ビジネスと人権」の実践例を紹介する講演会を大阪で開催した。
経済産業省通商政策局ビジネス・人権政策調整室の小川幹子室長は、日本政府が策定した「ビジネスと人権」に関するガイドライン内容と普及に向けた取り組みについて説明した。2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が支持された後、日本政府は国際スタンダードにのっとり、企業にとって分かりやすい具体例付きのガイドラインを2022年9月に策定した。ガイドラインでは企業に求められる取り組みとして、大きく分けて3つの項目を示している。まず、人権方針を作成・公表し、経営レベルでコミットメントすること。その上で、人権デューディリジェンスを定期的に繰り返すこと。人権デューディリジェンスとは、a.サプライチェーン上で生じている、生じ得る人権侵害を特定し、深刻度を評価、b.人権侵害の防止・解消の実施、c.効果有無の実証・評価、d.自社の取り組みの公表、これらからなる継続的なプロセスのことだ。最後に、人権侵害の予防、適切に解消できなかった場合の謝罪や、原状回復、補償、再発防止などの実施が求められる。小川室長は、これらの取り組み全体でステークホルダーと対話を行う必要があるとした。経済産業省は中小企業向けに、人権尊重の取り組み状況に関する自己評価質問票を用いたセミナー・ワークショップを実施しているほか、全国社会保険労務士連合会と協力して、中小企業の人権尊重の取り組みをサポートできる専門人材育成を全国各地で実施していると述べた。
小川幹子室長による講演(ジェトロ撮影)
アジ研新領域研究センターの山田美和上席主任調査研究員はビジネスと人権に関する国連指導原則の意義や、大阪・関西万博での持続可能性への取り組み、企業活動への示唆について講演した。まず、今回の万博と1970年大阪万博との最大の違いは、国連指導原則にのっとり、管理責任、包摂性、誠実性、透明性といった4つの統治原則を含む「持続可能性に配慮した調達コード」が取り入れられた点だと指摘した。これに基づき、2025年日本国際博覧会協会は取引先に対して人権尊重を求めていると述べた。その上で、企業として、人権は経済活動が人々の権利に与える影響というベクトルで捉えることが大切とした。具体的には、自社が引き起こす可能性がある人権侵害として、社内や顧客に対するハラスメントや、取引先に対し、コストを上げずに普段より短い納期を要求したり、要求スペックを上げたりすることや、相手先従業員の過重労働につながる恐れのあることも含まれると述べた。また、労働法令基準が低い国で現地法のレベルで対処することも望ましくなく、国際的基準を尊重することが望まれると指摘した。
講演する山田美和上席主任調査研究員(ジェトロ撮影)
パネルディスカッションでは、サントリーホールディングスや住友商事の代表者らが登壇し、自社の取り組みについて説明した。いずれも、現在直面している課題として、社内関係者の理解・納得の醸成を挙げた。
パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)
(齋藤寛)
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