バングラデシュが米国小麦輸入に合意、相互関税の交渉続く

(バングラデシュ、米国)

ダッカ発

2025年07月23日

バングラデシュ政府は7月20日、米国と今後5年間に年700万トンの小麦を競争力のある価格で輸入することで合意した。バングラデシュ食糧省で行われた覚書の締結式には、アリ・イマム・マジュムダー食糧省担当顧問(大臣に相当)やトレーシー・アン・ジェーコブソン駐バングラデシュ米国臨時代理大使らが出席した。食糧省は「国家の食料安全保障を強化し、栄養水準を向上させ、安定した食料供給を確保するため、この覚書を締結した」とのプレスリリースを発表したが、「相互関税」の引き下げ交渉が影響を及ぼしているとみられる。

食糧省は小麦のほか、大豆、油糧種子、豆類、砂糖、大麦の輸入計画を承認し、他の省庁がボーイング製航空機、液化天然ガス(LNG)、軍事機器の購入または輸入増に合意したという報道がある。また、知的財産権の順守や、米国企業が度々排除されてきた公共調達制度の見直し、企業の利益・収益・資本の米本国送金に係る問題など、関税以外の投資環境課題に関して、議論が及んでいるとも伝えられる(「ビジネス・スタンダード」紙7月21日)。

米国のドナルド・トランプ大統領は7月7日、バングラデシュ暫定政権のムハンマド・ユヌス首席顧問に書簡を送り、同国製品の輸入に対して8月1日から35%の相互関税を課すと明らかにした(2025年7月14日記事参照)。バングラデシュ政府が書簡を受領した直後に米国へ交渉団を派遣し、7月9~11日に行った協議で大きな進展は得られなかったが、それ以降も閣僚間協議の再開に向けた努力を続けている。他方、現地のビジネス関係者は、交渉が順調に進まない状況に不安を抱えている。

財界の有力者が集まったダッカ市内での討論会(7月20日)では、政府が業界団体や専門家に相談なく交渉に臨んでいることへ不満が出たという。バングラデシュ縫製品製造業・輸出業協会(BGMEA)のマフムド・ハサン・カーン会長は「相互関税率が10%、かつ縫製業界で競合するインドやベトナム、インドネシアよりも低く設定されれば耐え得るが、20%を超えると多くの工場が操業できなくなる」と危機感を示し、縫製業界大手ハメーム・グループの会長兼最高経営責任者(CEO)のアブドゥル・カデル・アザド氏は「当社はバイヤーから『どの程度関税の負担を吸収できるのか』と問い合わせを受けている」と実情を明らかにした(「デーリー・スター」紙7月21日)。

相互関税の適用開始が迫る中、バングラデシュ政府は交渉妥結に向け動きを加速させている。

(片岡一生)

(バングラデシュ、米国)

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