2025年第1四半期の経常収支は5四半期ぶりの赤字に

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2025年07月23日

アルゼンチンの国家統計センサス局(INDEC)は6月25日、2025年第1四半期の国際収支統計を発表した。第1四半期の経常収支は51億9,100万ドルの赤字で、経常収支の赤字は2023年第4四半期以来の5四半期ぶり。

ハビエル・ミレイ政権は、2023年12月11日の政権発足直後に自国通貨ペソを大幅に切り下げ、その後は緊縮財政を続けたことで、2024年は国内景気が冷え込んだ。その結果、輸入が急減、輸出が増加し、大幅な貿易黒字が経常収支黒字を支えた(添付資料図1参照)。インフレの抑制に成功し、経済活動が活発化し始めると、輸入が増えたことで貿易収支黒字は徐々に減少した。また、経済の安定化に伴い、資本取引規制を徐々に緩和する中で外貨の流出も増えた。

2025年第1四半期の経常収支赤字の拡大は、サービス収支赤字、特に旅行収支赤字の大幅な増加が原因だ。しかし、サービス収支と対外債務の利払いを含む第1次所得収支の赤字は、過去から継続してアルゼンチンの経常収支赤字の主な原因となっている(添付資料図2参照)。

旅行収支の赤字拡大は、INDECが公表している観光統計からもその傾向が見て取れる。2025年第1四半期にアルゼンチンを訪れた観光客数は約165万人、海外を観光で訪れたアルゼンチン人の数は約508万人で、それぞれ前年同期比24.7%減、79.6%増となっている。

インバウンド観光客数は2024年4月以降、14カ月連続で前年同月比割れが続いているが、その背景には、物価水準の大幅な上昇と、経済の安定化に伴って対ドル公式為替レートとブルーレートと呼ばれる並行為替レート(いわゆる闇レート)の乖離幅が大幅に縮小し、ドル建ての国内旅行費用が大幅に増加していることがある。

他方、アウトバウンド観光の増加については、2024年12月22日に外貨購入に課税されていた「社会的包摂の促進と資金調達のための外貨購入に係る税(通称:パイス税)」が廃止され、国際航空券を購入しやすくなったこと、国内の物価水準が高いため、国外で買い物をする需要が高まっていることなどが背景にあるとみられる。

加えて、2025年第1四半期の時点では毎月1%の切り下げに抑えられていた対ドル公式為替レートが過大評価された状態だったことが、アウトバウンド観光だけでなく輸入の増加を誘発したとの見方もある。

政府は、外貨流出に対抗するため、輸出競争力の拡大とそれによる外貨の獲得に向けて輸出規制の緩和に精力的に取り組んでいるほか、資本取引規制の緩和を段階的に進めることで直接投資の呼び込みに力を入れている。今回の経常収支赤字が成長に伴う一時的なものなのか、慢性的な経常収支赤字体質に戻ってしまうのか、今後の政府の取り組みが注目される。

(西澤裕介)

(アルゼンチン)

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