金融取引税(IOF)再調整の大統領令を公布

(ブラジル)

サンパウロ発

2025年06月19日

ブラジル政府は6月11日、金融取引税(IOF)(注1)の税率を再調整する大統領令第12.499号を公布し、即日施行した。これは、5月22日付の大統領令第12.466号によるIOFの増税の一部を見直すもので、特に生産部門への影響緩和を目的としている(2025年6月5日記事参照)。

今回の大統領令による主な変更点は次のとおり(添付資料表参照)。

企業や個人向け融資:一般法人向け融資への課税率は、借り入れ時の固定税率が0.38%に引き下げられる(同税率は、5月の大統領令で0.95%に引き上げられていた)。

シンプレス・ナショナル適用企業(注2)や個人零細事業者(MEI、注3)向け融資に対する課税率は、一般法人と同様に、借り入れ時の固定税率が0.38%に引き下げられ、日次税率が0.0082%に引き上げられる。

リスク・サカド(サプライチェーンファイナンス)(注4)への融資は、5月の大統領令で課された借り入れ時の固定税率が撤廃され、日次税率0.0082%のみが適用される。

保険取引:VGBL型年金プラン(注5)への課税は、月間基準から年間基準に変更される。2025年は年間30万レアル、2026年以降は年間60万レアルまでは課税されない。超過分には、5%が課税される。

債券投資ファンド(FIDC、注6)については、従来非課税だったFIDCのプライマリー市場での受益権取得に対し、新たに0.38%の固定税率が導入される。

生産部門への影響緩和も、一部では負担増

6月12日付現地金融専門誌「インフォマネー」によると、今回のIOFの再調整は、5月の大統領令による増税によって、法人部門の資金調達コスト上昇への懸念に、一部応えるものとなった。特にリスク・サカドの負担軽減は、サプライチェーンの流動性確保に寄与するとみられる。一方で、FIDCへの新規課税や外国為替取引における高水準のIOF維持、VGBL課税の複雑化は、関連する企業や個人の財務計画に影響を与えるため、引き続き留意が必要だ。

(注1)IOFは、Imposto sobre Operações Financeirasの略。連邦税の一種で、金融取引に対して課税される。具体的には、企業や個人への融資(貸し付け)、親子ローンを含む国外からの借り入れ、国外からの資本金送金、保険取引、さらには、国内で発行されたクレジットカードやデビットカードの国外での使用などにも課税される。取引の種類に応じて異なる税率が適用される。

(注2)シンプレス・ナショナル(Simples Nacional)は、ブラジルの中小零細企業向け簡易税務申告制度。適用対象は、年間売上高が480万レアル(約1億2,000万円、1レアル=約25円)までの企業。連邦税の法人所得税(IRPJ)、工業製品税(IPI)、社会負担金のPIS/COFINSやCSLL、州税の商品流通サービス税(ICMS)、市税のサービス税(ISS)など8種類の税金・社会負担金を1つの書類で支払うことができ、通常の税務申告制度に比べ、一般的に税負担額が軽減される。

(注3)MEIは、Micro Empreendedor Individualの略。年間売上高がさらに少額の個人事業主を対象とした、最も簡素な企業形態。

(注4)リスク・サカドとは、サプライヤーが買い手企業に対する売掛債権を金融機関に譲渡し、早期に資金化する金融取引の一形態。一般的に買い手企業がその支払いを保証する。

(注5)VGBLは、Vida Gerador de Benefício Livreの略。ブラジルの個人向け年金プランの一種。

(注6)FIDCは、Fundo de Investimento em Direitos Creditóriosの略。企業の売掛金などを裏付けとして、証券化して投資家に販売するファンド。

(中山貴弘)

(ブラジル)

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