金融取引税(IOF)の増税決定
(ブラジル)
サンパウロ発
2025年06月05日
ブラジル政府は5月22日に大統領令第12.466号、翌23日に同第12.467号を公布し、金融取引税(IOF)の増税を決定して、即日施行した。
IOFは連邦税の一種で、金融取引に対して課税される。具体的には、企業や個人への融資(貸し付け)、親子ローンを含む国外からの借り入れ、国外からの資本金送金、保険取引、さらには、国内で発行されたクレジットカードやデビットカードの国外での使用などにも課税される(注1)。5月23日付の現地紙「ブラジル・デ・ファト」によると、財政調整と歳入増が目的だ。
それぞれの金融取引に関する税率の主な変更点は次のとおり(添付資料表参照)。
〇企業や個人向け融資:一般法人向け融資への課税率は、これまでは借入期間に対し1日当たり0.0041%だったが、0.0082%に、借入時の固定税率は0.38%から0.95%に引き上げる。シンプレス・ナショナル適用企業(注2)や、個人零細事業者(MEI、注3)向け融資に対する課税率は、これまでは借入期間に対し1日当たり0.0024%だったが、0.0053%に引き上げる。シンプレス・ナショナル適用企業の借入時の固定税率は0.38%から0.95%に引き上げるが、MEIへの固定税率は0.38%が維持される。リスク・サカド(サプライチェーンファイナンス)への融資は、これまでIOFの課税対象ではなかったが、6月1日から課税対象となる(注4)。税率は融資対象に応じて規定している。
〇外国為替:国際カード利用、外貨現金購入、非投資目的の自己名義国外送金などの税率は、年率3.5%に上昇し、統一された。364日以内の短期対外借り入れ(資金流入時)も3.5%が課税される。国内ファンドの国外投資への課税は0%が維持され、個人の投資目的国外送金も年率1.1%が維持された。
〇保険取引:VGBL型年金プラン(注5)への月間拠出合計額が5万レアル(約125万円、1レアル=約25円)を超える場合、拠出総額に5%が課税される。
財務省の5月23日付の発表によると、フェルナンド・アダジ財務相は、財政赤字の拡大が懸念される中、今回の措置によって税収増を図り、財政均衡を図る狙いがあるとみられる。政府は今回の措置により、2025年に約205億レアルの歳入増を見込んでいる。
サンパウロ州工業連盟(FIESP)や、サンパウロ州産業センター(CIESP)などの主要経済団体は声明を発表し、融資による資金調達にかかるコスト増、増税による投資の減退や競争力の低下を懸念し、IQF税率の引き上げを批判している。今回の改正は、政府の財政再建努力を示すものの、資金調達にかかるコスト増など企業活動への影響は必至だ。
なお、5月23日付の現地紙「アジェンシアブラジル」によると、大統領令に当初盛り込む予定だった国内ファンドの国外投資への3.5%の課税は、市場の強い反発を受け、公布からわずか1日後に大統領令第12.467号で、税率が0%に修正された。このような朝令暮改の対応は、ブラジル税制の予測可能性を損なうものとして、批判的に受け止められている。
(注1)詳細はブラジル「税制」参照。
(注2)シンプレス・ナショナル(Simples Nacional)は、ブラジルの中小零細企業向け簡易税務申告制度。適用対象は、年間売上高が480万レアル(約1億2,000万円、1レアル=約25円)までの企業。連邦税の法人所得税(IRPJ)、工業製品税(IPI)、社会負担金のPIS/COFINSやCSLL、州税の商品流通サービス税(ICMS)、市税のサービス税(ISS)など8種類の税金・社会負担金を1つの書類で支払うことができ、通常の税務申告制度に比べ、一般的に税負担額が軽減される。
(注3)MEI(メイ)は、Micro Empreendedor Individualの略。
(注4)リスク・サカドとは、サプライヤーが買い手企業に対する売掛債権を金融機関に譲渡し、早期に資金化する金融取引の一形態。一般的に買い手企業がその支払いを保証する。
(注5)VGBLは、Vida Gerador de Benefício Livreの略。ブラジルの個人向け年金プランの一種。
(中山貴弘)
(ブラジル)
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