米上院財政委が「大きく美しい1つの法案」の修正案を提示、先行きは不透明
(米国)
ニューヨーク発
2025年06月19日
米国連邦議会上院のマイク・クレイポ財政委員長(共和党、アイダホ州)は6月16日、下院で可決された「大きく美しい1つの法案」(2025年5月23日記事参照)について、同委員会が所管する部分の修正案を発表した。
修正案には、メディケイドや減税、インフレ削減法(IRA)に関する修正など重要な変更が多数含まれている。しかし、同修正案には、メディケイドの削減を懸念する者、さらなる歳出削減を志向する財政強硬派、トランプ減税のさらなる拡大を求める者などさまざまな立場の共和党議員が反発しており、共和党が目標とする独立記念日(7月4日)までの可決は厳しいとの見方が強い。また、上院を通過したとしても下院でそのまま可決される保証はなく、法案の最終的な成立は見通しづらい。今回提示された主な修正点は次のとおり。
(1)メディケイド
医療費負担適正化法(Affordable Care Act)に基づいてメディケイドを拡大した州に対し、医療提供者税の上限を2026会計年度から6%とした上で、毎年0.5%ずつ段階的に引き下げ、最終的に3.5%とする。州政府はメディケイドの州負担分を医療提供者に対する課税で賄っていることから、この提案が可決され、負担増をほかの手段で補填(ほてん)できない場合、州政府はメディケイド対象者の絞りこみが必要となる。
(2)個人向け減税
トランプ減税の延長を恒久化する一方、下院案で提示された追加的な減税(2025年5月14日記事参照)の規模を縮小。具体的には、チップ課税免除(年2万5,000ドルまで)、残業代課税免除(1万2,500ドルまで)に上限を設定したほか、児童扶養税額控除の控除額も2,200ドルに縮小(下院案では2,500ドル)。州税に係る税額控除幅(SALT)も1万ドルに据え置く(下院案では4万ドルに拡大)。
(3)IRAに基づく税額控除の見直し
クリーン電力生産クレジット〔内国歳入法(IRC)45Y〕、クリーン電力投資クレジット(IRC48E)は、廃止規定を下院案よりも緩和。太陽光・風力発電は、下院案では、法案成立後90日以内に建設を開始し、2028年までに稼働することが税額控除を受ける条件となっていたが、上院修正案では、2026年以降に建設が開始された場合も税額控除の対象とする。具体的には、2026年に建設が開始される場合は60%、2027年に開始の場合は20%に税額控除を削減、2028年以降は税額控除を廃止(注1)。
先端製造業生産クレジット(IRC45X)は、下院案では、太陽光発電関連部品、バッテリー、重要鉱物など対象製品の全てに関して、2031年12月31日以降は税額控除を廃止するとしていたが(注2)、上院修正案では重要鉱物のみ例外規定を設けた。具体的には、税額控除を2031年末までは75%、2032年末までは50%、2033年末までは25%に段階的に削減し、2034年以降は廃止する。
(4)不当な外国税に対する報復税制(Sec. 899)
下院案では、グローバル・ミニマム課税やデジタルサービス税など、米国企業に対して「差別的な税を課している国」の企業・個人の所得(米国内を源泉とするものに限る)に対して追加課税する仕組みが提案されていた(注3)。上院修正案では、税率の上限を15%に引き下げるほか、適用日を2027年に遅らせる。
(注1)太陽光・風力以外の電源(水力・原子力・地熱など)に関しては、2034年までに建設を開始すれば税額控除を受けられる内容になるもよう(議会専門誌「ザ・ヒル」6月16日)。
(注2)風力発電用部品は、2027年12月31日以降に販売されるものについて、税額控除が廃止。
(注3)法案成立後90日以降、「差別的な課税」の発効後180日以降に課税が可能となる予定。毎年5%ずつ引き上げられ、最大20%まで課すことができる。ただし、「差別的な課税をしている国」のリストについては、財務長官が定めて公表することになっており、それまでは適用されないなどのセーフハーバー条項も設けられている。
(加藤翔一)
(米国)
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