メルツ首相、所信表明演説で外交重視の姿勢表明

(ドイツ)

ベルリン発

2025年06月03日

ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ首相は5月14日、就任後初の所信表明演説を連邦議会で行い、冒頭で新政府が新たなかたちの安全、全ての市民の繁栄と社会の結束に向けて努力していくことを約束した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、ドイツ語)。要旨は次のとおり。

〇外交:ドイツは欧州の一員として、信頼でき、予測可能なパートナーであり続け、NATOやEUでより大きな責任を担っていくことを示した。欧州と民主主義を分裂させ不安定化させようとするロシアに対し、断固とした態度で一丸となって防衛体制を強化すると述べ、ロシアによるウクライナや西側諸国に対するさまざまな攻撃を強く非難するとともに、自由を守るために闘う姿勢を明確に打ち出した。同時に、米国、EUと連携してウクライナ支援を継続する姿勢も明らかにした。

〇国防:ドイツ連邦軍は通常戦力で欧州で最強の軍隊となるべきとの明確な目標を掲げ、防衛力強化を前面に打ち出した。

〇経済:再び成長軌道に乗せるために、公的および民間投資を推進するとしたが、具体的な施策には言及せず、特別基金からの支出によってインフラの価値と国全体の競争力が持続的に向上するだろうと述べるにとどめた(2025年3月24日記事参照)。

所信演説受けた国内メディアや産業界の受け止め

総じて、安全保障と外交重視の内容であり、演説の内容から、メルツ首相を「外交首相」と評した報道もあった(「フランクフルター・アルゲマイネ」紙5月14日)。また、社会民主党(SPD)のオラフ・ショルツ前首相の働きに感謝を述べたことなどは、現地メディアでは、1度目の首相指名選挙で否決されたことをメルツ首相が真摯(しんし)に受けとめ、連立政権内の融和を図ろうとしており、野党党首時代の攻撃姿勢を抑え、国家指導者としての穏やかな政治スタイルに変えたなどの評価もあった(2025年5月8日記事参照)。

メルツ首相の所信演説を受け、ドイツ産業連盟(BDI)のペーター・ライビンガー会長は「(経済政策の成長プログラムという)明確なメッセージを伝えるためにも、今すぐこれを実行することが大事だ」と述べ、企業が夏季休暇前に投資決定するため計画の確実性を確保しなければならないと強調した。ドイツ商工会議所連合会(DIHK)のペーター・アドリアン会長は、メルツ氏が発表した措置の多くは経済界の観点からは「遅すぎる」と述べ、同氏もまた夏季休暇前に経済への明確な支援措置のサインを送ることを求めた(公共放送局「ZDF」5月14日)。

(打越花子)

(ドイツ)

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