貿易障壁の高まり受け、7割の国・地域で成長率を下方修正、世界銀行見通し

(世界)

調査部国際経済課

2025年06月12日

世界銀行は6月10日に「世界経済見通し」〔プレスリリース英文外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます和文外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕を発表した(添付資料表参照)。2025年と2026年の世界経済成長率(実質GDP伸び率)はそれぞれ2.3%、2.4%の予測で、前回見通し(2025年1月)から0.4ポイント、0.3ポイント、それぞれ下方修正した。米国の関税政策をはじめとする貿易障壁や不確実性の高まりを受け、新型コロナウイルス感染が発生した2020年を除き、2010年以降で最も低い水準となった。2027年の成長率については、2.6%とわずかに上向くと予測した。

今回の世界経済の見通しは、5月下旬時点で発効済みの関税率に近い水準が予測期間を通じて維持されることを前提としている。そのため、米国とその貿易相手国間でそれまでに発表された関税引き上げの一時停止は継続すると仮定したものだ。

今回の予測では、全世界の7割近くの国・地域で2025年の成長予測を下方修正した。先進国・地域は2025年は1.2%で成長するとの予測で、前回予測から0.5ポイント引き下げた。米国が1.4%(前回予測から0.9ポイント減)、ユーロ圏が0.7%(0.3ポイント減)となった。米国は貿易障壁の高まりや投資支出の減少、ユーロ圏は米国による関税引き上げや外需の鈍化などを背景に、下方修正した。

新興・途上国・地域は3.8%に鈍化する予測で、前回から0.3ポイント引き下げた。中国は4.5%と前回予測から据え置いた。米国による追加関税が影響するものの、財政刺激策によって消費が部分的に支えられ、相殺される見込みだ。メキシコは0.2%(前回から1.3ポイント減)と大幅に引き下げた。米国による一律20%の追加関税に加え、自動車や自動車部品、鉄鋼・アルミニウムへの追加関税による打撃が反映された。

世界銀行のアイハン・コーゼ副チーフエコノミスト兼見通し局長は「新興・途上国・地域は貿易統合の恩恵を受けてきたが、現在は世界規模の貿易紛争の最前線に立たされている」と述べ、さらなる国境を越えた対話と協力を促した。

なお、米国の加重平均関税がベースラインシナリオに対して約10ポイント上昇し、貿易相手国からも比例した報復措置がとられる下振れシナリオでは、2025年と2026年の成長率はベースライン比でそれぞれ0.5ポイント、0.4ポイント低くなる見込みだ。他方、さらなる貿易協定が締結されるなど、ベースライン比で関税が半減し、貿易関連の不確実性が軽減される上振れシナリオでは、ベースライン比で0.1ポイント、0.3ポイント上昇するとの予測だ。

また、世界銀行は世界のインフレ率について、2025年と2026年の平均で2.9%とした。これは、依然として新型コロナ禍前を上回る水準だ。関税の引き上げや労働市場の逼迫が世界のインフレ率にも上昇圧力をかけているとした。

(馬場安里紗)

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