金融取引税(IOF)減収補填の新たな財政措置導入

(ブラジル)

サンパウロ発

2025年06月25日

ブラジル政府は6月11日、金融取引税(IOF、注1)の税率を再調整する政令第12.499号を公布し、即日施行した(2025年6月19日記事参照)。併せて同日、IOF再調整による税収減を補填(ほてん)するため、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は新たな財政措置を盛り込んだ大統領暫定措置令(MP)第1303/2025号を即日施行した。政府はこれにより、2025年に105億レアル(約2,762億円、1レアル=約26.3円)、2026年に206億レアルの歳入増を見込んでいる。

主な内容は次のとおり。

非課税投資への課税:従来非課税だった農牧業信用証券(LCA、注2)、不動産信用証券(LCI、注3)、不動産投資ファンド(CRI、注4)、農業関連投資ファンド(CRA、注5)、インセンティブ付き社債の新規発行分に5%の所得税を課税。

その他金融・暗号資産への課税:その他の課税対象証券は、投資期間にかかわらず、一律17.5%の所得税を適用。暗号資産については、月額3万5,000レアルまでの利益に対する所得税非課税措置を撤廃し、17.5%を適用。

法人・特定事業への増税:金融機関に対する純利益に対する社会負担金(CSLL、注6)の税率を引き上げる(9%の区分を廃止し、15%または20%に設定)。

スポーツベッティングの粗収益(GGR、注7)に対する課税率:従来の12%から18%に引き上げる。

特定の投資商品や金融機関の収益性に影響も

6月12日付の上院の広報機関の発表によると、この度の各種増税は特定の投資商品や金融機関の収益性に影響を及ぼすとみられる。特にこれまで税制優遇を背景に人気を集めていたLCAやLCIといった商品などへの新規投資の魅力が相対的に低下する可能性がある。

なお、今回の措置を巡っては、その効力を停止させるための立法令案(PDL)が自由党(PL)から下院議会に提出されており、今後の審議の行方が注目される。

(注1)IOFは、Imposto sobre Operações Financeirasの略。連邦税の一種で、金融取引に対して課税される。具体的には、企業や個人への融資(貸し付け)、親子ローンを含む国外からの借り入れ、国外からの資本金送金、保険取引、国内で発行されたクレジットカードやデビットカードの国外での使用などにも課税される。取引の種類に応じて異なる税率が適用される。

(注2)LCA(農牧ビジネス債券)は、Letra de Crédito do Agronegócioの略。アグリビジネス関連事業への融資資金を調達するために発行される。

(注3)LCI(不動産担保証券)は、Letra de Crédito Imobiliárioの略。不動産ローンを原資として発行される債券。

(注4)CRI(不動産投資ファンド)は、Certificado de Recebíveis Imobiliáriosの略。不動産事業から生じる将来のキャッシュフローを証券化したもの。

(注5)CRA(農業関連投資ファンド)は、Certificado de Recebíveis do Agronegócioの略。CRIのアグリビジネス版。

(注6)CSLL(純利益に対する社会負担金)は、Contribuição Social sobre o Lucro Líquidoの略。連邦税の一種で、企業の純利益に対して課される。

(注7)GGR(粗収益)は、Gross Gaming Revenueの略。賭博事業における売上総利益。

(中山貴弘)

(ブラジル)

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