5月のインフレ率、前年同月比2.82%に低下、6年3カ月ぶりの低水準
(インド)
ムンバイ発
2025年06月17日
インド統計・計画実施省(MoSPI)が6月12日に発表した5月の全国ベースの消費者物価指数(CPI、注1)は193.0ポイント(速報値)で、前年同月比の上昇率(インフレ率)は2.82%にとどまった。4月の3.16%から0.34ポイント低下し、2019年2月の2.57%以来の低水準を記録した。CPI上昇率は2024年11月から7カ月連続で低下しており、足元では物価上昇圧力の後退が一段と鮮明になっている(添付資料図参照)。
同指数品目の半分近くを占める食品のインフレ率(注2)は前年同月比0.99%となり、2025年1月以降継続的に低下している(1月:5.97%、2月:3.75%、3月:2.69%、4月:1.78%)。野菜の生育が順調だったことなどから、これまでインフレの主要因だった野菜のインフレ率はマイナス13.70%となり、42.18%だった2024年10月以降は低下傾向にある。全品目のインフレ率は都市部で3.07%、農村部で2.59%だった。
こうした物価動向を受け、インド準備銀行(RBI、中央銀行)は6月4~6日に開催した金融政策決定会合(MPC)で、政策金利を50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き下げ、5.50%とすることを決定した。加えて、預金準備率(CRR)の段階的な引き下げも発表した。一方、政策スタンスは「緩和的(accommodative)」から「中立(neutral)」へと変更しており、今後は経済指標に応じた柔軟な対応が想定される(2025年6月11日記事参照)。
5月のCPIが大きく低下したことを受け、市場では、今回の物価統計がRBIによる前倒しの利下げ判断を裏付ける内容だったとの見方が出ている。地場格付け会社ICRAのエコノミストのアディティ・ナヤル氏は「食品・飲料品の価格下落により、CPIは75カ月ぶりの低水準の2.8%となり、RBIが利下げを前倒しした判断を裏付ける内容となった」と指摘した。その上で、8月のMPCでは金利の据え置きが見込まれるとしつつ、「モンスーンの降雨量とその食品インフレへの影響がより明確になる10月には、25bpの追加利下げが行われる可能性もある」との見解を示した(「タイムズ・オブ・インディア」紙6月12日)。
今後は南西モンスーンの降雨状況や、国際原油価格、為替相場の動向などが物価や金融政策の行方を左右することが見込まれる。南西モンスーンは例年6月上旬にインド南部から始まり、7月中旬までに全国へ拡大して9月末ごろまで続く。インド気象庁(IMD)は2025年の降水量が平年を上回る106%になるとの予測を示しており、農業生産へのプラス要因として期待されている。ただし、地域ごとの降雨の偏りや進行の遅れが農産物価格に与える影響には引き続き注意が必要だ。
(注1)全国ベースのCPIは基準年の2012年を100とし、農村部と都市部の各CPIを加重平均したもの。
(注2)ここでは、CFPI(消費者食品物価指数)のインフレ率を記載。
(篠田正大)
(インド)
ビジネス短信 b77ea817d026d1f3