インド準備銀、市場予想上回る大幅利下げ、成長支援からバランス重視へ転換
(インド)
ムンバイ発
2025年06月11日
インド準備銀行(RBI、中央銀行)は6月4~6日に金融政策決定会合(MPC)を開催し、政策金利(レポレート)を50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き下げて5.50%とすることを、委員6人中サンジャイ・マルホトラ総裁を含む5人の多数決で決定した(添付資料図参照)。市場ではおおむね25bpの利下げが見込まれていた中、予想を上回る措置となった。利下げは2025年2月、4月に続く3会合連続で、2025年初からの累計引き下げ幅は100bpに達した。
RBIは今回の会合で、金融政策スタンスを従来の「緩和的(accommodative)」から「中立(neutral)」に変更した。2月以降の一連の利下げにより、現時点で金融政策に残された成長支援の余地は限定的との認識を示したもので、今後はインフレと成長のバランスを見極めつつ、慎重かつ柔軟な対応を図るとしている。
利下げの背景として、インフレ率の安定と物価見通しの下振れが挙げられる。4月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比3.2%と6年ぶりの低水準を記録し、食品価格の下落に加え、コアインフレ率も抑制的に推移した。また、2025年のモンスーンによる降雨量は平年を上回ることが予測されており、農産物の供給増加を通じた物価安定への寄与が見込まれる。こうした情勢を踏まえ、RBIは2025年度(2025年4月~2026年3月)のCPI上昇率見通しを従来の4.0%から3.7%に引き下げている。
一方、成長率は足元で回復基調にあるものの、輸出の不透明感や地政学的リスクを背景に、先行きには警戒感も残る。2024年度第4四半期(2025年1月~3月)の実質GDP成長率は前年同期比7.4%と堅調だったが、RBIは内需を引き続き下支えする必要があるとして、利下げの前倒し実施に踏み切った。
また、マルホトラ総裁の声明によると、利下げと並行して、預金準備率(CRR)も100bp引き下げ、3.00%とする措置を発表した。CRRの引き下げは9月以降段階的に実施し、銀行の流動性供給力を高めることが見込まれている。これにより、市中には累計で2兆5,000億ルピー(約4兆2,500億円、1ルピー=約1.7円)の追加流動性が供給される見通しだ。
キャピタル・スモール・ファイナンス銀行のサルブジット・シン・サムラ最高経営責任者(CEO)は「50bpの大幅なレポレート引き下げと、100bpのCRR引き下げの組み合わせは、成長を先取りする適切な措置で、市場に2兆5,000億ルピーの流動性を注入する効果がある」と評価した上で、「資金調達コストの削減と流動性の改善は、借り手の信頼感を高め、中小金融機関の与信拡大にも追い風となる」との見方を示している(「インディアン・エクスプレス」紙6月6日)。
(篠田正大)
(インド)
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