EU司法裁判所、商標取得による技術の独占に対して「悪意がある」との判決
(EU、ドイツ)
デュッセルドルフ発
2025年06月27日
EU司法裁判所(CJEU)(注1)は、6月19日、特許が失効後に技術的な特徴を商標で囲い込もうとする行為は、「悪意がある」と認定され得る(注2)との判決を下した(判決文)。
高機能セラミックを製造するドイツ企業セラムテック(CeramTec)は、医療用セラミック部品の技術に関する特許が切れた直後に、その技術的な特徴に起因する「ピンク色の外観」を商標として登録した(注3)。競合のクアーズテック(CoorsTek)は、ピンク色のセラミック部品を販売していたことで、セラムテックから商標権侵害などで2013年に訴えられたが、これに対し、クアーズテックは「特許の代わりに商標で技術の独占を延命しようとするもので、悪意がある」として商標の無効を求める訴えを起こした。本件はパリ控訴院で争われていたが、EU商標に関する理事会規則207/2009の法的な問題が争点となるため、同院は本件についてCJEUに質問していた。
これに対しCJEUはこの度、商標出願者が特許の保護が切れた後に技術的特徴を囲い込む目的で商標を出願した場合、それは「悪意」の一因となり得ること、その「悪意」の判断は、出願者の主観的な意図だけでなく、出願時の状況や事実に基づいて総合的に評価されるべきであるなどと判決を下した。
特許は、技術的なアイデアや発明を一定期間(通常は出願から20年間)だけ独占的に保護する制度だ。一方、商標は、商品やサービスの「ブランド」や「出所」を示すためのもので、文字だけでなく、色彩や図形、立体的特徴などが保護されるもので、技術そのものを保護するものではない。そして、商標は適切に利用している限り、無期限(更新は必要)に保護される。
今回の判決を通して、特許失効後に技術的特徴を商標で囲い込もうとする行為には「悪意がある」として、その商標が無効になり得ることが明確に示された。商標出願の目的やタイミング、対象となる形状や色などが、商標以外の知的財産法や競争法の観点から問題視される可能性があることに配慮すべきだと示されたかたちだ。
(注1)すべてのEU加盟国において、EU法令が一様に解釈・適用されるようにつかさどる裁判所。EU加盟各国の裁判所がEU法令の解釈について疑問が生じた場合、各国裁判所は、その解釈についてCJEUに説明を求めることができる。
(注2)商標出願時に施行されていた、EU商標に関する理事会規則207/2009の第52条第1項(b)において、「商標出願人が出願時に悪意をもって行動していた場合」、商標は無効とされると規定されている。したがって、特許が切れた後に、技術的な特徴を商標で囲い込もうとする行為が「悪意がある」と認定され得るということは、この商標自体も無効となり得るということになる。なお、現行のEU商標に関する理事会規則2017/1001にも、同様の規定がある。
(注3)セラムテックの特許は、セラミックに酸化クロムを適量含むことを技術的な特徴としており、この酸化クロムの影響で結果的にセラミックがピンク色になる。そして、同じ技術は再度特許登録できないため、この特許が切れた後、セラムテックは特許に代わり「ピンク色の外観」を色彩・図形・立体商標の3種類の商標で出願し登録した。
(吉森晃、佐藤吉信)
(EU、ドイツ)
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