週40時間労働導入に向けたフォーラム初開催

(メキシコ)

メキシコ発

2025年06月26日

メキシコ労働・社会保障省(STPS)は、「週40時間労働の導入に向けたフォーラム」を6月19日に首都メキシコ市で、23日に北東部ヌエボレオン州モンテレイ市で開催した。このフォーラムは5月にマラス・バルチ・ボラニョス労働・社会保障相が発表したもので、2030年1月までに週の労働時間の上限を現行の48時間から40時間に段階的に移行するに当たっての意見聴取が目的だ(2025年5月8日記事参照)。

メキシコ市のフォーラムでは、週40時間労働の(1)段階的な導入(注1)、(2)ルールの柔軟な適用、(3)産業分野に合わせた導入を進める方針で大筋合意がなされた。一方で、ヌエボレオン州のフォーラムでは、賃金や残業手当の計算方法や休暇日数、社会保障など福利厚生への影響などに対する懸念や、法的枠組みに例外措置を設ける重要性といった点も指摘された(「エル・エコノミスタ」紙6月20、24日付)。フォーラムにはボラニョス労働・社会保障相に加えて、メキシコ市ではクララ・ブルガダ・モリナ市長、ヌエボレオン州ではサムエル・ガルシア州知事も出席した。また、業界団体や連邦・州政府、金融、労働組合、アカデミアなどさまざまなバックグラウンドを持つ有識者が招待された。フォーラムは全7回にわたって開催される予定で、次回はハリスコ州で6月27日に開催される。

国立統計地理情報院(INEGI)が四半期ごとに実施する職業と雇用についての全国調査(Encuesta Nacional de Ocupación y Empleo、通称ENOE)によると、2025年第1四半期(1~3月)時点での従属・報酬労働者(注2)の約4,100万人のうち、最も大きな割合を占めるのは週35~48時間働く2,200万人だ。週48時間より長く働く人は2番目に多く、970万人に上る。識者によると、「労働時間の平均は48時間ではなく、57~60時間のあいだ」で、実質は48時間から40時間ではなく、60時間から40時間に削減しなければならない企業も少なくないという(「レフォルマ」紙6月23日付)。

本格導入の開始に先立ち、労働時間を試験的に削減している企業もある。メキシコ国内で3,000店舗以上を展開する米国系小売り大手のウォルマートは、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)前政権で労働時間を短縮する憲法改正案が出されたころから、週の労働時間を40時間とするパイロットプロジェクトを国内100店舗で導入してきた。メキシコと中米を統括するイグナシオ・カリデ最高経営責任者(CEO)は、この試験導入が「不必要なことをやめ、生産性を上げることにつながっている」と話す(「エル・エコノミスタ」紙5月5日付)。

(注1)連邦政府が掲げるのは、2030年1月までの労働時間削減の達成だが、労働組合関係者は「段階的導入」に賛同しつつも、2027年までの削減完了へ、より早期の達成を目指しており、「段階的」が指すペースにはセクター間での差がみられる。

(注2)従属・報酬労働者は「給与労働者」と「非給与労働者」の合計。雇用主や個人事業主は含まない。「非給与労働者」とは、報酬を手数料やチップなど「給与」以外のかたちで受け取る労働者のこと。

(渡邊千尋)

(メキシコ)

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