欧州委、競争力強化の側面も持つ「欧州水レジリエンス戦略」を発表
(EU)
ブリュッセル発
2025年06月13日
欧州委員会は6月4日、政策文書「欧州水レジリエンス戦略」を発表した(プレスリリース
)。EUでは近年、洪水や干ばつ、山火事など気象災害が頻発かつ激甚化し、人々の健康や水と食料、エネルギーの供給に影響を与え、大きな経済的損失が生じている。水資源の保全や持続可能な水管理の強化と同時に、世界の水関連技術分野の特許権の40%を保有するEU企業や研究機関を強みに、関連投資の拡大やイノベーションの創出によって、EUの競争力強化を目指す。
同戦略は、(1)水循環の復元と保全、(2)水関連産業のスマート化と振興、(3)安全で衛生的な水の安定供給、の3つを主目標とする。このうち、(2)では「水利用の効率化」と「持続可能な水管理」の向上を重視する。
「水利用の効率化」に関し、欧州委は同日発表の加盟国向けの勧告において、EUとして2030年までに10%以上の水利用の効率化を目指すとした。加盟国や関係者と各国・地域の特性などを考慮した国別目標を策定し、2027年に戦略を見直す際、EUレベルでの数値目標を導入する方針だ。
「持続可能な水管理」については、バッテリー生産や半導体、データセンターなどの水集約型産業に着目し、水およびエネルギーの利用効率化を最大限に両立させるとした。例えば、データセンターの節水を促進するため、欧州委がデータセンターのエネルギー効率と持続可能性を評価し、水の使用量を含む最低性能基準を提案する。また、環境や水、電力網に関連するデータを活用し、加盟国による水集約型産業に適した地域の特定や投資誘致を支援する。さらに、加盟国に対し安全な水の再利用に関する指針を出し、現在EU平均2.4%に過ぎない排水の再利用を促進する。
また、欧州委は、戦略や加盟国の取り組み実現には社会が一体となって取り組む必要があると強調。そのうえで、(1)ガバナンスと実行、(2)投資、(3)デジタル化推進と人工知能(AI)、(4)研究とイノベーションの促進、(5)安全と防災、の5分野おける施策を提示した。例えば(2)では、結束政策(2025年4月7日記事参照)からの水関連事業への拠出金を増額、また欧州投資銀行が新たな融資ファシリティを立ち上げることで、関連事業の資金確保や官民投資の動員拡大につなげる。(3)では、AIの活用も含めた水分野のデジタル化行動計画を策定するほか、スマートメーターの普及や水関連の衛星データの活用を促進する。
さらに、EU域内の関係者間の対話フォーラムを隔年で開催するとし、第1回は2025年12月に開催の予定だ。
(滝澤祥子)
(EU)
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