欧州委、結束政策予算の産業競争力や防衛力強化への振り分けを加盟国に要請

(EU)

ブリュッセル発

2025年04月07日

欧州委員会は4月1日、2021年から2027年までのEUの現行中期予算計画(MFF)における結束政策の中間見直しに関する政策文書を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。第2次フォン・デア・ライエン体制におけるEUの優先課題である域内産業の競争力強化(2025年2月6日記事参照)と防衛力の再構築(2025年3月21日記事参照)により多くの結束政策予算を割り振るべく、2025年末までに加盟国に対し投資計画を修正するよう求めている。なお、結束政策の増額は提案されていない。

結束政策とは、域内の地域間格差の是正に向け経済的に発展の遅れた加盟国あるいは地域を主な対象にしたEUの主要投資政策で、加盟国が策定し実施する投資計画に、EUと加盟国が共同出資するもの。主に4つの基金からなり、7年ごとに策定されるMFFにおいて各基金への割当額や投資目標などの大枠が規定されている。現行MFFでは、EU通常予算の約3割にあたる3,920億ユーロが結束政策に割り当てられており、欧州委の前体制における優先課題だった欧州グリーン・ディールやデジタル化などに資する投資が重視されている。

今回の政策文書によると、結束政策の支援対象を、戦略技術の支援枠組み「STEP」(2024年12月16日記事参照)の対象技術、鉄鋼などのエネルギー集約型産業や自動車産業の脱炭素化のほか、防衛分野の生産能力拡大やインフラ整備などに拡大。域内をつなぐ送電設備や電気自動車用充電インフラの整備などについても支援対象に含める。また、高騰する住宅価格に対処すべく、安価な住宅向け補助金の割り当ても倍増するよう加盟国に求める。

EUによる出資条件についても、一部分野での投資計画につき、中小企業だけでなく大企業も対象とするほか、EUの出資比率の引き上げや支援地域の制限撤廃などより柔軟にする。

次期MFFにおける結束政策の改革に意欲

2028年からの次期MFFについて、欧州委は既に結束政策における成果型予算執行モデルの導入や基金の集約などの改革方針(2025年2月14日記事参照)を示している。今回も、現状維持は選択肢にないと強調し、新たな優先課題に沿ったより柔軟かつより効果的な枠組みへの改編に向け意気込みを示している。一方で、地政学上の変化に合わせた柔軟な産業支援と発展後進地域向けの長期的な振興策という結束政策の本来の性質は合致しないとの指摘もある。欧州委がこうした2つの要請にいかに折り合いをつけるのか、2025年夏に発表が予定されている次期MFF案に注目が集まっている。

(吉沼啓介)

(EU)

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