2024年にコンゴ民主共和国でコバルトの世界生産量の76%採掘、供給過剰で価格下落
(アフリカ、コンゴ民主共和国、中国、世界)
調査部中東アフリカ課
2025年06月02日
国際的なコバルトの研究機関「Cobalt Institute」は5月14日、コバルト市場関連の年報「Cobalt Market Report 2024
」を発表した。同年報によると、世界のコバルトの需要は2024年に前年比14%増の約22万トンに達した。同年のコバルト生産(採掘)の国別シェアでは、コンゴ民主共和国が全体の76%を占めた。前年から3万4,000トン増加したという。同国では、中国のCMOC(洛陽欒川鉬業集団)によるキサンフ鉱山が主要な採掘量を占める。その他、インドネシアやオーストラリアなどでも採掘される。なお、コバルトの精製では、中国が世界シェア78.6%だ。フィンランドで7.2%、カナダで2.7%、日本でも1.9%が精製されている。
EVや電池の需要増、国防の観点も
コバルトの用途をみると、2024年は電気自動車(EV)用バッテリー向けが43%を占め、2030年には57%を占めるとの予測だ。世界的な脱炭素政策を背景に、EV販売は前年比26%増と増加傾向にあり、コバルト市場の成長の要因となっている。特に中国でのEV販売台数は前年比39%増の1,120万台となった。その他、コバルトは携帯電話用やノートパソコン用の電池などにも利用されている。また、人工知能(AI)の利用拡大はデータセンターなどでのコバルトを利用した電池需要の増加にもつながっているという。軍事利用としては、携帯通信機器やドローンなどの電池の需要も増加した。
国防など安全保障や地政学的な観点から、各国がコバルトのサプライチェーンに関心を持っている。中国のコバルト調達の優位性に対して、米国はアンゴラのロビト港からコンゴ⺠主共和国のコルウェジ間の既存の鉄道と港湾関連の改修や、ザンビアへの拡張など、鉱物資源調達関連の支援を行う計画もある。
一方で、2024年には供給の伸びが需要の伸びを上回り、価格は史上最低水準まで下落した。これに対し、コンゴ民主共和国は2025年2⽉、供給過剰に対処し、価格を押し上げるため、4カ⽉間のコバルト輸出禁⽌を発表した。
人権侵害にも関連する零細採掘が減少
同年報によると、コバルトの正規の工業用採掘の拡大により、手掘りなどの零細採掘(Artisanal mining)はコンゴ民主共和国では2%未満、世界では約1%まで落ち込んでいるという。同研究所のダイナ・マクラウド事務局長はプレスリリースで、手掘りなどの零細採掘は貧困や汚職と密接な関係があるが、コンゴ民主共和国などでは数少ない仕事の機会のため、採掘をなくすことではなく、公正で安全な人権侵害のない採掘にすることが重要だと指摘した。
国際エネルギー機関(IEA)によると、アフリカ全体ではグリーン分野に関する重要鉱物の生産が多く、2024年にコバルトは約7割、銅は17%、リチウムは11%の世界シェアを占めるという(2025年5月30日記事参照)。
(井澤壌士)
(アフリカ、コンゴ民主共和国、中国、世界)
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