スターマー英首相、EUとの合意発表、農産品やエネルギー、防衛含む多分野で関係深化へ

(英国、EU)

ロンドン発

2025年05月21日

英国のキア・スターマー首相は5月19日、EUとの間で新たな協定に合意したことを発表した(共同声明や共通認識など関連する文書は英国政府ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。第1回となる英EUサミットで合意した。スターマー首相は記者会見で、合意は両者にとって有益なものであるとした。その上で、単一市場や関税同盟の再加盟、移動の自由への回帰は行わないといった選挙公約を堅持したと述べた。

政府はEUとのサミットでの合意に関する説明文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)も公表、概要は次のとおり。

  • 農産物に関しては、英国・EUの間で衛生植物検疫圏を設置。輸出衛生証明書(EHC)、植物衛生証明書、有機産品に対する検査証明書、販売基準証明書要件を撤廃。さらに、農産品に関する国境での定期検査を停止。生ソーセージや英国水域で獲られた一部貝類、たねいもなどEUへの輸出が禁止されていた英国製品について禁止を解除。グレートブリテンと北アイルランド間のモノの移送を簡素化。なお、英国の国益にかかわる部分については、例外を設けるためにEUとの交渉を実施。
  • エネルギーに関しては、EUの電力取引プラットフォームへの参加を検討するほか、クリーンエネルギー技術における協力を最大化。EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)による支払いを回避するため、英国排出量取引制度(UK ETS)についてEU排出量取引制度(EU ETS)とリンクさせる。
  • 鉄鋼については、英国を対象としたEU側の国別割り当てを改善。
  • 防衛・安全保障・開発の分野では、EUとの間で安全保障・防衛パートナーシップに合意。防衛産業におけるより緊密な連携や共同投資に係る枠組みの設置のほか、EUの加盟国向け融資制度である「欧州の安全保障行動(SAFE、2025年3月21日記事参照)」における互恵的な協力の可能性を模索。開発に関しては定期的な対話を実施。
  • 若者の移動に関し、さらなる協力に合意。英国がオーストラリアなどと設けている既存のスキームに合わせたものとする。
  • 短期ビジネスを目的とした移動や専門資格の相互認証に関する対話を設置することで合意。

合意には、不法移民への対応や法執行における協力、英国民によるEU加盟国入国時の自動ゲートの利用などの内容のほか、漁業権についても盛り込まれた。これまでは2026年6月以降は両者の間で相互の水域へのアクセスについて毎年交渉を行うとしていたが、今回新たに今後12年間の措置に合意し、2038年6月末まで相互の水域へのアクセスを認めるとした。政治専門誌「ポリティコ」(5月19日)は漁業権に関する合意について、英国による大きな譲歩と位置付けている。

(山田恭之)

(英国、EU)

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