米環境保護庁、30年超続いたエネルギースター制度を廃止へ

(米国)

ニューヨーク発

2025年05月12日

米国環境保護庁(EPA)が30年以上続いた「エネルギースター」制度を廃止する計画を進めていることが明らかになった。青い星マークで知られる同制度は、家電製品などの省エネ性能を認証する国際的に認知された仕組みだ。

EPAの大気保護局は5月6日に全体会議を開き、同局自体の解体とともに、エネルギースター制度の廃止を発表した。米上院環境公共事業委員会の民主党議員が入手した資料によると、「再編・廃止される組織の職員はほかのポジションに再配置される可能性がある」としている(「ワシントン・ポスト」紙電子版5月6日)。

1992年にブッシュ(父)政権下で創設されたエネルギースター制度は、これまでに米国の家庭と企業に5,000億ドル以上のエネルギーコスト削減をもたらしてきた。また、同制度は約40億トンの温室効果ガス(GHG)排出を防いできたとされ、これは9億3,300万台以上のガソリン車の排出量に相当する効果を持つという。

ドナルド・トランプ大統領は第1次政権時にも、エネルギースター制度の廃止、または民営化を検討していたが、実現しないまま任期を終えていた。トランプ氏はこれまでも、節水設計のシャワーヘッドやトイレなど、特定の省エネ製品に対して批判的な姿勢を示し、バイデン前政権下で定められてきた各種規制を撤廃する大統領令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも発表していた。5月2日に発表された2026年度予算教書の概要PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)でも、EPAの大気保護プログラムに関して「政府の権限を超えた不必要で過激な気候変動規制を企業に課し、経済成長を妨げている」と批判し、1億ドルを削減する方針を示しているほか、エネルギー省(DOE)のエネルギー効率の上昇などを進めるプログラムからも、2億6,000万ドルの予算削減を計画するなど、エネルギー効率の向上を図る各種措置を不要なコストとして削減していく方針を示しており、今後もさまざまな措置が提起される可能性がありそうだ。

一方で、今回のエネルギースター制度廃止の動きに対しては、産業界から懸念の声も相次いでいる。3月には米国商工会議所を含む数十の企業や業界団体がリー・ゼルディンEPA長官に対し、エネルギースター制度は「政府と民間部門の効果的な非規制的プログラムで、優れたパートナーシップの例」として、存続を要請していた。米国家電製品協会は代替案として「DOEへの制度移管」を提案し、「合理化されたエネルギースター制度の継続」を支持する姿勢を示している。

米国エネルギー節約同盟のポーラ・グローバー会長は「エネルギースター制度の廃止は、この政権が掲げる家計コスト削減という公約と矛盾する」と指摘し、同制度は「年間わずか3,200万ドルのコストで400億ドル以上もの公共料金の節約をもたらしている」と、費用対効果の高さを強調した。グローバー氏は、2040年までに米国の電力需要が35~50%増加すると予測される中、「単に発電所を建設するだけでは、将来のエネルギー需要を満たすことはできない」と警告している(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版5月6日)。

(藤田ゆり、加藤翔一)

(米国)

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