欧州委、EU競争法の合併ガイドラインの見直しへ、公開諮問開始

(EU)

ブリュッセル発

2025年05月15日

欧州委員会は5月8日、合併ガイドラインの見直しに向けたパブリックコンサルテーション(公開諮問)を開始した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。合併ガイドラインは、欧州委が実施するEU競争法上の合併審査の評価枠組みを規定するもので、水平合併ガイドラインと非水平ガイドラインからなる。合併ガイドラインは策定から20年以上が経過し、現在の市場構造に適さないとの指摘が出ている。域内産業の競争力強化を最優先課題に掲げる欧州委(2025年2月6日記事参照)は、市場変化や技術革新に合わせ、EU企業が世界市場でスケールアップできるよう、合併ガイドラインを見直す方針だとみられる。

EUでは近年、EU企業による技術革新の遅れや、米国企業や中国企業などとの競争激化による域内産業の競争力低下が叫ばれている。現状ではEU競争法の合併規制はあくまでEU域内市場の競争環境の維持を目的とし、世界市場での競争環境は十分に考慮していない。実際に、欧州委は2019年、世界最大手の鉄道車両メーカーの中国中車に対抗すべく進められた欧州鉄道大手のフランス・アルストムとドイツ・シーメンス鉄道事業との合併について、域内市場の競争環境の悪化などを理由に不承認とした(2020年8月4日記事参照)。

こうした中で、イタリアのエンリコ・レッタ元首相は域内市場での競争力強化に関する報告書で、域外企業との競争を前提にしたEU競争法の運用を提言した(2024年4月25日記事参照)。フランスのエマニュエル・マクロン大統領とドイツのフリードリヒ・メルツ首相も5月に連名で、合併によって世界で戦える「欧州王者」企業が生まれるようなEU競争法の運用を求める方針を表明した。

欧州委は、今回のパブリックコンサルテーションを実施するに当たり、見直し内容の具体的な方針は示していないものの、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委委員長は、世界市場でスケールアップを目指す企業を支援するための新たなアプローチが必要との認識を示している。一方で、欧州委は、域内市場の競争環境の維持という合併規制の目的は現在も有効で、今回の見直しにより変更する意図はないとしている。そもそも今回の見直しの対象は、法的拘束力を有しないガイドラインのみで、根拠法となる合併規則は対象に含まれていない。こうしたことから、欧州委が今後どこまで踏み込んだガイドライン見直し案を策定するのかに注目が集まっている。

(吉沼啓介)

(EU)

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