カシミール地方のテロ事件でインドとパキスタンの関係が急速に悪化、インド軍が攻撃
(インド、パキスタン)
ニューデリー発
2025年05月08日
インド北部の山岳地帯のカシミール地方で4月22日に発生したテロ事件でインド人観光客ら26人が犠牲になったことをきっかけとして、インドとパキスタンの関係が急激に悪化している。カシミール地方(ジャンム・カシミール、ラダック)は領土の帰属をめぐりインド、パキスタン、中国の3カ国が争う係争地だ。今回のテロ事件は、インドとパキスタンの実効支配線近くで発生し、パキスタンを拠点とする武装勢力が一時、犯行声明を出したが、その後否定した、と報じられている。
インドのナレンドラ・モディ首相は4月24日に「すべてのテロリストおよびその支援者を特定・追跡し処罰する。地の果てまで追いかける」と発言し、怒りを露わにしていた。インド政府は、パキスタン政府が同テロ事件を引き起こした武装勢力を支援していると主張し、4月23~24日に次の措置を発表した。
- インドの実効支配地域からパキスタンに流れるインダス川の水資源の管理を規定したインダス水利条約の効力停止(注)
- 両国間で唯一、陸路での越境が可能だったアタリ―ワガ国境検問所の即時閉鎖
- 南アジア地域協力連合(SAARC)の特別措置であるビザ免除制度(通称:SVESビザ)によるパキスタン人のインド渡航の禁止、ならびに発給済みSVESビザの即時無効化
- パキスタン大使館に相当する在ニューデリーの高等弁務官事務所の武官の1週間以内の退去。また、5月1日から同所人員を最大30人に制限
- パキスタン人に対するビザの即時発給停止、ならびに発給済みビザの無効化(4月27日から。ただし、ヒンドゥー教徒のパキスタン人に発行されている長期滞在ビザについては引き続き有効)
他方、パキスタン政府は、インド政府が主張する武装集団とパキスタン政府との関係性を否定し、「インドがパキスタンに対する悪意ある措置を実行するために、自作自演している」と主張する。インド政府の姿勢は敵対的で一方的だと強く非難し、4月25日には報復として次の措置を発表した。
- インドとのあらゆる2国間協定を一時停止する権利の行使
- アタリ-ワガ国境の即時閉鎖ならびにインドからの越境移動の停止
- インド人に対して発給されているビザの即時無効化と48時間以内の出国(シーク教徒の巡礼者を除く)
- インド大使館に相当する在イスラマバードの高等弁務官事務所の武官の4月30日までの退去。また、同日から、同所人員を最大30人に制限
- インドの航空機に対するパキスタン空域の即時閉鎖
- パキスタンを経由する第三国との貿易を含む、インドとの全ての貿易の即時停止
さらにパキスタンの報復措置に対抗するかたちで、インド政府は4月30日~5月3日に、4件の通達を追加で発表した。
- パキスタンの航空機に対するインド空域の5月1日から23日までの閉鎖
- パキスタン原産品とパキスタンから輸出される物品のインドへの輸入ならびに流通の即時停止
- パキスタン籍の船舶のインドへの寄港禁止ならびにインド籍の船舶のパキスタンへの寄港禁止
- 5月3日からのパキスタンとの郵便・小包サービスの停止
両国の関係は、長年にわたり緊張状態にある。カシミール地方では2019年2月にも、少なくともインド治安部隊の兵士40人が犠牲になるテロ事件が発生し、両国による空爆に発展した。今回も双方による措置の応酬が続いており、インド政府は5月7日未明に国軍がパキスタン領内への攻撃を実施したと発表した。パキスタン外務省は7日、市民が犠牲になったと発表し、報復を示唆するなどさらに対立が深まることが懸念されている。このほか、空域の閉鎖などによる経済的損失も見込まれている。
(注)1960年に締結され、これまでパキスタンはインダス川の水資源の約8割を得ていたが、今回インドが同条約の効力を停止したことにより、パキスタンに流れる水量がインドの裁量によって左右されることとなった。
(丸山春花)
(インド、パキスタン)
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