スイス・バイオテクノロジー産業、未公開企業の資金調達が過去最高を記録
(スイス)
ジュネーブ発
2025年05月07日
スイス・バイオテクノロジー協会は5月6日、英国コンサルティング会社アーンスト・アンド・ヤング(EY)やスイス国立科学財団、貿易・投資振興機関のスイス・グローバル・エンタープライズ(S-GE)など9つのパートナー機関・企業と共同で作成した「スイス・バイオテクノロジー報告書2025年版」を発表した。前日の5日に既に記者向けにリリースしていたが、スイス・バーゼルで5月5~6日に開催された「スイス・バイオテック・デイ2025」の2日目のプレナリー・セッションに合わせて発表した。
スイスのバイオテクノロジー業界は、深刻な財政的課題、および市場の課題にもかかわらず、2024年も引き続き回復力を示した。売上高は72億スイス・フラン(約1兆2,456億円、CHF、1CHF=約173円)と堅調に推移し、研究開発投資は26億CHFに増加した。特に好調だったのは未公開企業の資金調達で、調達総額25億CHFのうち、過去最高の8億3,300万CHFを占めた。中でも、アレンティス・セラピューティックス(Alentis Therapeutics、1億6,300万CHF)とシックスピークス・ビオ(SixPeaks Bio、1億200万CHF)が牽引した。
また、スイスのバイオテクノロジー企業は、ACイミューン(AC Immune)と武田薬品工業、イドルシア(Idorsia)と米国ヴィアトリス(Viatris)、ハヤ(Haya)と米国イーライリリー(Eli Lilly)、バシレア(Basilea)と米国イノビバ(Innoviva)など、大手製薬企業との提携を行った。製品販売は、イドルシア、バシレア、サンテラ(Santhera)による先進治療薬を含めて、スイス医薬品局(Swissmedic)、欧州医薬品庁(EMA)、米国食品医薬品局(FDA)などの世界各国の規制当局から多数の承認を取得した企業が牽引した。そのほか、医薬品受託開発製造企業(CDMO)による人材需要の高まりと民間バイオテクノロジー研究開発企業の成功により、雇用は2024年に約8%増加した。
今回発表した報告書のテーマは「国際提携の力」で、スイスが研究開発から製造、規制の調和に至るまで、世界のライフサイエンス・エコシステムのあらゆるレベルにおいて、いかに国際提携を促進し、業界全体に利益をもたらしているかを強調している。スイス・バイオテクノロジー協会のマイケル・アルトルファー最高経営責任者(CEO)は、「孤立主義政策や『自己中心主義』のアプローチがまん延する時代に、スイスの協働モデルは魅力的な対案を提示している」と指摘。スイスのバイオテクノロジー企業が、国内市場向けに新製品や新技術を単独で開発しているわけではなく、強力な国際パートナーと緊密に連携して革新的な製品を開発し、世界的な課題に効果的なソリューションを提供してきた長い伝統を持っていると強調。このアプローチはスイスのバイオテクノロジーハブに深く根付いており、スイスで出願されたバイオテクノロジー特許の5件中4件は国際協働の成果だ、と指摘している。同時に、スイスは多様で国際的な人材プールを構築し、経験とベストプラクティスの世界的な共有を強力に促進していると強調している。
(田中晋)
(スイス)
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