ルーラ大統領のロシア訪問、国内で批判上がる

(ブラジル、ロシア)

サンパウロ発

2025年05月20日

ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領が5月8~10日にロシアを訪問したこと(2025年5月13日記事参照)に対し、ブラジル国内で多くの批判が上がっている。現地紙「フォーリャ」(5月7日付)は社説で「この訪問は(ロシアのウラジーミル・プーチン大統領)の専制政治への支持になり、ブラジルのイメージを悪化させるものだ。ウクライナ侵攻についても、ロシア側への支持と見なされても当然だ」と批判した。現地紙「グローボ」(5月7日付)や「エスタード」(5月10日付)も、同様の記事を掲載している。

学術界からも批判が上がっている。例えば、サンパウロ大学のマリア・エルミニア・タバレス名誉教授は「フォーリャ」(5月14日付)への投稿で、「ウラジーミル・プーチン大統領は自らの権力とウクライナへの侵攻計画を正当化するために(5月9日にモスクワで開催された)対ナチス・ドイツ戦勝記念日を利用している。ルーラ大統領はモスクワを訪問したことにより、この演出を支持した」と述べた。

一方、ブラジルを代表するシンクタンクで、高等教育機関のジェトゥリオ・バルガス財団(FGV)のペドロ・ブリテス教授は現地紙「CNNブラジル」(5月7日付)のインタビューで、「ウクライナ戦争が進行している中でロシアを訪問することは、ロシアへの支持としてみられる可能性があり、(ブラジルの)イメージダウンにつながるリスクもある。しかし、ますます重要な貿易相手国となっているロシアと貿易関係を深めることには、メリットがある。また、BRICSの背景もあり(注1)、ロシアとの協力を強化することも、有意義な試みだ」とコメントした。

ルーラ大統領は5月10日にロシアで行われた記者会見で、「私は貿易について話すためにロシアに来た。ロシアとの経済的な関係を改善したい。ロシアは石油、ガス、小規模の原子力発電所などの分野で、ブラジルにとって重要なパートナーになり得る」と強調した(注2)。また、今回の訪ロがウクライナ戦争でのロシア側支持になるとの批判に対しては、ルーラ大統領は「ブラジルは戦争の終了を望んでいる。平和のためにプーチン氏と話したい。平和のために(中国国家主席の)習近平氏と話したい。平和のためにフランスと話したい。私がロシアに来たことで、この考え方に変わりはない。われわれは平和を望んでおり、そのために話せる相手がいれば、だれとでも話し続ける」と回答した。

(注1)ブラジルは2025年のBRICS議長国を務めている。7月にはリオデジャネイロでBRIC首脳会合が開催される。

(注2)ルーラ大統領に同行したアレシャンドレ・シルベイラ鉱山エネルギー相は5月8日、ロシアの国営原子力企業ロスアトムの子会社テネックスとの面談で、ロシアとの協力関係を模索する原子力発電の可能性や、クリーンエネルギーへの移行などについて、意見交換を行った。

(エルナニ・オダ)

(ブラジル、ロシア)

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