イスタンブールの交通渋滞による経済損失、年間最大70億ドルとの試算も
(トルコ)
イスタンブール発
2025年05月19日
トルコのイスタンブールの激しい交通渋滞について、5月5日付の国営アナドル通信によると、同地のオカン大学の有識者は年間最大70億ドルの経済損失があると試算したという。道路の拡張や交差点の増設は交通渋滞の解決策とはならず、交通車両の増加が危険運転や違法駐車にもつながっているとの見解を示している。また、1台当たりの乗車人数が平均1.5人というイスタンブールでの車両利用の特徴から、解決策の1つとして、自家用車以外の交通手段での移動を奨励している。
米国の交通データ分析会社INRIXが2025年1月に発表した2024年の世界渋滞評価レポートで、最も交通渋滞が激しい都市としてイスタンブールを最上位にランク付けしている。イスタンブールのドライバーは、年間平均105時間を交通渋滞に費やしていると試算し、次いでニューヨークとシカゴが102時間、ロンドン(101時間)、メキシコ市(97時間)と続いている。また、イスタンブールの渋滞要因は人口増加と急速な経済成長、都市化によるものと明示している。
近年、トルコ政府は鉄道や道路などの物流開発計画を遂行しており、物流網の強化に取り組んでいる。特にイスタンブールの主要道路の強化(2024年10月30日記事参照)、イスタンブールと周辺地域の接続強化と移動時間の短縮に注力している。アブドゥルカディル・ウラロール運輸・インフラ相は3月、「1915チャナッカレ橋と高速道路の開発計画」を発表し、イスタンブールとトルコ北西部のマルマラ海沿岸のテキルダー間の移動時間は1時間未満、同じくトルコ北西に位置するチャナッカレ間の移動時間は3時間半から2時間に短縮される見通しとなっている。また、イスタンブールで地震が発生した場合、この道路がイスタンブール西部からの避難にも有効活用される見込みとしている。
約1,570万人の人口を抱えるイスタンブールだが、トルコ統計局(TUIK)が5月に発表した2024年のイスタンブールの出生率は1.2人と低水準だ。トルコ全体で見ても、2017年以降、人口維持に必要とされる2.1人を下回り、年々減少をたどる一方だ。2024年には過去最も低い出生率1.48人となっており、人口増加についてはここ数年で急激に状況が変化しているが、イスタンブールの渋滞は大きな社会問題として長年の課題となっている。例えば、トルコでは、職場や学校への送迎バスがある一方、企業の管理職を中心に、自家用車で出勤、通学する人が多く、自家用車移動を好む根強い傾向がある点も渋滞要因の1つとして考えられている。政府やイスタンブール市は市営バス専用レーンの新設や、地下鉄をはじめとしたインフラの拡充などに取り組んできたが、いまだ画期的な解決策は見られていない。トルコ最大の経済都市イスタンブールの渋滞緩和は同国にばく大な経済効果をもたらすため、解決策の探究が急がれる。
(井口南)
(トルコ)
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