原子力基盤の活性化図る大統領令発表
(米国)
ニューヨーク発
2025年05月28日
米国のトランプ政権は5月23日、原子力産業の活性化に向け、4本の大統領令(注1)に署名した(2025年5月28日記事参照)。このうち、原子力基盤の活性化を図る大統領令は、人工知能(AI)に関わる世界的な覇権争いや、高まるエネルギー自立の必要性、国家安全保障のためのベースロード電源(注2)へのアクセスの必要性などの新たな課題に対応するべく、原子力基盤の活性化を図るため、次の具体的な措置(抜粋)をエネルギー省(DOE)長官などに指示している。
(1)使用済み核燃料などの管理に係る国家政策の策定
国内の核燃料サイクルを強化するべく、使用済み核燃料などの管理を支援する国家政策や、核燃料のリサイクルおよび再処理に関する政策の評価、リサイクル・再処理によって回収されるウラン・プルトニウムなどの効率利用に関する提言などを含む報告書を240日以内に策定するよう指示。
(2)原子力燃料の供給能力拡大に関する計画の策定
低濃縮ウラン(LEU)、高濃縮ウラン(HEU)、高純度低濃縮ウラン(HALEU)の民生・軍事用原子炉の需要を満たすのに十分なウラン転換能力、濃縮能力の拡大に関する計画を120日以内に策定するよう指示。
(3)余剰プルトニウム処理方法の見直し
余剰プルトニウムの希釈処分プロジェクトを中止し、先進的核燃料の製造に利用できるかたちで、これを処理するプログラムを確立することを指示。
(4)余剰ウラン管理政策の更新
90日以内に、DOEの余剰ウラン管理政策を更新し、申請日から3年以内に、適格試験炉、またはパイロットプログラム炉に燃料を供給する燃料製造施設の開発契約を優先して実施するよう指示。
(5)国防生産法を活用した特定企業との優先契約
1950年国防生産法(注3)に基づき、連邦政府の必要に応じて、トリチウム生産や海軍艦艇の原子力推進機関、核兵器を含むLEU、HALEUを共同調達するに当たり、客観的なマイルストーンを達成した企業に対して優先的に協定を締結する措置を実施するよう指示。
(6)原子力発電所の再稼働、完成、出力向上、建設のための資金調達
既存の原子力発電所の発電容量を5ギガワット(GW)増強し、2030年までに10基の大型原子力発電所の建設を開始するよう努めることを指示。また、実現に向け、DOEの貸し付けプログラムを活用して優先的に融資を実施するよう指示。
(7)原子力関連の労働力開発などの促進
原子力関連の登録制見習い制度や、職業訓練プログラムなどを促進する各種措置を講じることを指示。
(注1)4本の大統領令は、「原子力基盤の活性化を図る大統領令」「DOEにおける原子炉試験の改革を図る大統領令」「原子力規制委員会の改革を命じる大統領令」「国家安全保障のための先進原子炉の導入を図る大統領令」。
(注2)季節や時間を問わず、低廉かつ安定的に発電できる電源。
(注3)同法708条では、国防に影響を与える生産・流通の問題に対処するため、業界関係者間で自主協定を締結することを認めている。これらの協定が国防体制の強化に必要と判断され、連邦政府の承認を受けた場合、独占禁止法の適用が除外される。
(加藤翔一)
(米国)
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