ルーラ大統領の訪中成果に、評価分かれる産業界は期待と懸念

(ブラジル、中国)

サンパウロ発

2025年05月21日

ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は5月12~13日に中国を公式訪問し、ブラジルと中国間の発展戦略の連携、エネルギー、科学技術、農業、デジタル経済、金融、検疫検査、メディアなど20項目にわたる協力文書を締結した(2025年5月15日記事2025年5月16日記事参照)。これに対し、ブラジル産業界からの評価は分かれている。

例えば、ブラジルのルイ・コスタ官房長と中国国家発展改革委員会の鄭柵潔主任は5月13日にインフラ、医療、教育など幅広い分野における協力に向けた覚書(MOU)に署名した。コスタ官房長は、大統領府公式サイト(5月13日付)において「今後、中国企業による鉄道事業や車両製造への参加を拡大するために議論の場を設けたい」と説明した。しかし、ブラジル鉄道産業協会(ABIFER)は5月12日付プレスリリースで、「今回発表されたブラジルと中国とのパートナーシップによって中国での車両製造が促進されるため、われわれは憤慨している。ブラジルは国内での車両製造を優先すべきだ」と反発の意を示した。

また、ルーラ大統領の訪中時には、中国系自動車メーカー大手の長城汽車や広州汽車集団を含む、中国企業によるブラジル向け投資案件が多数発表された。これに対し、サンパウロ州工業連盟(FIESP)のラファエル・セルボーネ副会長は現地紙「エスタード」(5月14日付)のインタビューで、「投資が実際にどのような条件で実施されるか見極める必要がある」と強調した。セルボーネ副会長は「ブラジルで中国製品のプレゼンスを促すパートナーシップが締結される場合、競争力のバランスを考慮し、慎重に進める必要がある。例えば自動車産業では、過去に国内に生産拠点を有しないメーカーは特別な税制優遇を与えられた一方、国内で生産するメーカーはそれを活用できず、不公平な競争が生じた。これは不合理であり、ブラジルにとって不利益だ」と懸念を表明した。

一方、農業関連産業からは期待の声が多く聞かれる。ブラジル農業・畜産省(MAPA)と中国税関総署(GACC)は5月13日、2件のMOUを締結した。これにより、ブラジル産アヒル肉、七面鳥肉、鶏内臓肉、飼料用トウモロコシ由来エタノール製造副産物(DDG・DDGS)、粉末ピーナツの中国向け輸出が解禁される。このMOU締結を受け、ブラジル動物性タンパク質協会(ABPA)は公式サイト(5月13日付)で、「農業・畜産省の尽力により、ブラジルの家禽(かきん)肉産業の輸出拡大の可能性が開かれた」と高く評価した。また、ブラジル全国トウモロコシ由来エタノール協会(UNEM)は、インスタグラム公式アカウント(5月13日付)で「ブラジルのアグリビジネスにとって前進のきっかけになる」と、MOU締結を歓迎した。

(エルナニ・オダ)

(ブラジル、中国)

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