2024年のベトナム・スタートアップへの投資、AIや農業分野が伸長

ベトナム財政省傘下の国家イノベーションセンター（NIC、注1）らは4月22日、2024年のベトナム・スタートアップ（SU）などへの投資動向などをまとめた「Vietnam innovation ＆ Private Capital Report 2025」を発表した。同レポートは、2020年からNICが地場ベンチャーキャピタル（VC）のDo Venturesと共著で「Vietnam Innovation ＆ Tech Report」（注2）として発表していた。2025年からは、NICとVietnam Private Capital Agency（VPCA）との共同、かつ米国ボストンコンサルティンググループ（BCG）の協力を得ての作成となった。レポートの名称も改め、VCとプライベートエクイティ（PE）の両面からベトナムのプライベートキャピタルの概況を包括的に捉えたレポートになった。なお、VPCAは、Do Venturesをはじめとするベトナム・東南アジアの主要ファンドにより設立された団体で、Do Venturesのビー・レー創業者兼ゼネラルパートナーが会長を務める。

同レポートによると、2024年の投資動向のポイントは次のとおり。

1. 2024年のベトナムSUへの投資ファンドによる投資金額（注3）は、前年比25％減の3億9,800万ドル。世界経済の不確実性の高まりにより、投資家がより厳選した投資に集中していることを反映し、過去最高を記録した2021年をピークに減少傾向が続く結果となった(添付資料図参照)。
2. 一方、2024年の投資件数は前年の122件から3％減の118件。なお、2024年下半期の投資額は上半期の約3倍、かつ前年同期比36％増の2億9,800万ドルと復調傾向。
3. 分野別でみると、2024年は投資額1位が「ビジネス自動化」で前年比6.6倍、2位は農業で9.6倍となった。前者はベトナムの生産性向上技術、後者は農業サプライチェーンのデジタル化や持続性可能性推進について、それぞれ関心の高まりを反映している（添付資料表参照）。また、複数にまたがる分野として、ベトナムの人工知能（AI）スタートアップ市場の総投資額は、2023年の1,000万ドルから2024年には8倍の8,000万ドルに拡大した。金融、ヘルスケア、電子商取引（EC）などの多分野にAI技術が急速に浸透している。
4. 過去3年の累計でみると、投資額の上位は(1)金融サービス、(2)小売り、(3)ヘルスケア、(4)教育、(5)ビジネス自動化、(6)農業、(7)グリーンテックの順。過去3年の累計を過去10年のものと比較すると、サステナビリティセクターへの需要を受け、農業とグリーンテックへの投資が拡大基調。
5. 投資額の規模別でみると、2024年は50万ドル以下の少額投資が前年比7割増の57件となり、2021年以降減少傾向が見られたアーリーステージのSUへの投資活動が回復の兆しを示した。
6. ベトナムで活動する投資ファンドの総数は、2023年の99社から2024年は147件と48％増。国別では、シンガポールが最多（29件）で、ベトナム（25件）、米国（19件）、日本（12件）、韓国（12件）と続く。日本は前年の5社から7社増えた。

グエン・チー・ズン副首相は、同レポートの発表式で、イノベーションエコシステムの発展におけるプライベートキャピタルの役割の重要性を強調するとともに、政府と民間セクターの協力の必要性について言及。政府の指導と支援と民間セクターの積極性と柔軟性の効果的な組み合わせが、強力で成功したイノベーションエコシステムを創出するとした（4月23日付ベトナムインベストメントレビュー）。

（注1）従来は、旧計画投資庁傘下の組織。2025年の中央省庁再編で財政省と計画投資省が統合し、3月1日より財政省となったことで、NICも同省傘下となった（2025年2月25日記事参照）。

（注2）2020年は「Vietnam Tech Investment Report」の名称で発表。2021年以降は「Vietnam Innovation ＆ Tech Investment Report」の名称で発表（参考：過去レポート一覧）。

（注3）同レポートによると、投資総額は、テクノロジー企業における幅広い資金調達活動を反映。ベンチャーキャピタル以外の投資、例えばベンチャーデット、プロジェクトファイナンス、企業スピンオフなども含まれるが、デジタルトークンによる資金調達はこれらの数字には含まれていない。

（三木貴博）