トランプ米政権、テキサス高速鉄道の連邦助成を撤回、今後は民間主体事業へ方向転換
(米国)
ヒューストン発
2025年04月21日
米国運輸省連邦鉄道局(FRA)と米国鉄道旅客公社アムトラックは4月14日、テキサス州高速鉄道プロジェクトへの連邦助成6,390万ドルを撤回すると発表した。FRAは、建設は非現実的で、納税者にとってはハイリスクな投資と判断し、助成撤回措置に至った。
当初、民間事業主体の投資として始まった同事業は、見積り費用の高騰により、アムトラック参画後は連邦の資金に依存していた。当初120億ドルと見込まれた事業コストは膨れ上がり、運輸省によると、400億ドルを超えるとされる。助成が今回打ち切られたのは、テキサス高速鉄道計画だけで、同計画に配分されていた助成金はほかの事業(注1)に充当する予定だ。
テキサス高速鉄道は、日本の東海道新幹線の車体N700系を用い、テキサス州ヒューストンとダラス間の約385キロを約90分で結ぶ計画だ。2020年にFRAが同事業に適用される最終安全規則(RPA)案と、環境影響評価の完了を示す決定評価(ROD)案を公表し、同時にヒューストン~ダラス間の経路を制定した。日本の新幹線技術の安全性が米国で認められた事例と言える。2023年にアムトラックが本格的に参画し、連邦助成支援を申請した。公的資金の導入による計画促進が期待される一方で、税金を活用することによる地元住民の反発可能性も報道されていた。日本からも、JR東海が現地子会社(注2)を設立し、さらに、JRや三菱重工業、日立製作所、東芝インフラシステムズ、NECがコンソーシアム「Team Shinkansen United(チーム・新幹線・ユナイテッド、TSU)」を編成した。海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)も出融資を行ってきたが、2024年11月に支援撤回を発表した。
テキサス高速鉄道の事業開発主体テキサス・セントラル(TC)の代理人のアンディ・ジェント氏によると、高速鉄道を敷設するのに必要な土地の買収は現時点で25%にとどまるという。同氏は、2025年1月にクラインハインツ・キャピタル・パートナーズ(本社:フォートワース)がTCの主要な投資会社となり、今後は地元テキサス州の民間事業主体で計画を進めると強調した。一方で、同氏は、テキサス州議会で協議している鉄道計画のための道路工事に公的資金を登用することを禁止する法案(HB1402)に対しての懸念について言及し、インフラ投資・雇用法(注3)に基づく連邦助成への期待を語った(「ニューズウィーク」誌2025年4月1日)。
TCの主要な投資会社となったクラインハインツ社は、今回の連邦助成停止措置について「プロジェクト全体にとっては良いこと」と前向きに捉えている。同社は「この事業を民間投資主体で進めるべきという方針に、心から同意する。着工目前の計画であり、多くの雇用を見込む。ドナルド・トランプ大統領が目指す米国経済の成長に貢献できる」と語った(「テキサス・トリビューン」紙2025年4月14日)。
(注1)テキサス高速鉄道プロジェクトへの助成は「回廊選定開発プログラム(Corridor Identification and Development Program、CID)」によるもので、都市間の旅客鉄道開発で実現可能な計画を補助する。初期交付額は50万ドルで、進捗に応じて追加交付される。2022年度の助成対象は、テキサス高速鉄道を含む新規高速鉄道7件、新規鉄道34件、既存鉄道15件、拡充13件の計画が選定され、ワイオミングやサウスダコタ、ネブラスカ、ユタなどの内陸州を除き、ほぼ全米にわたる。
(注2)2016年に同事業の技術支援のための現地子会社「HTeC(エイチテック)」、2018年にはコアシステム受注のためのHInC(エイチインク)を設立。
(注3)バイデン前政権下で超党派の連邦議員が提案し、2021年11月に成立。旅客・貨物鉄道整備には660億ドルの支出が組み込まれた(2021年11月9日記事参照)。
(キリアン知佳)
(米国)
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